巾着の中身


 予約したおでんがある居酒屋の個室に通された。


 柔らかい椅子に座り、テーブルの横側に立て掛けられたメニューカードを抜き取ると、対面に座ったキツ姉さんにカードを広げて渡す。

 そして俺はメニューカードのすぐ横に設置してあった電子タブレットを充電器から引き抜き、キツ姉さんの注文を受け取る用意をする。


 箸とおしぼりは予約していたからか、すでにテーブルの左右に対面して置かれていた。


「勇坊は飲めるようになったか?」


 キツ姉さんからと『飲めるようになったか?』という問いに、俺はそれとなく答える。


「まだです。今からでもキツ姉さんと飲めるようになるのが楽しみです」


「勇坊は嬉しいことをゆうてくれるな」


 キツ姉さんは上半身を左右に揺らしてニコニコと嬉しい事をアピールすると、頭から隠していた狐耳がピョコピョコと出てきた。


「可愛い」


「ん? 勇坊、なにかゆったか?」


 俺は顔を横に振り、惚けた顔を解くと、顔の下にあるメニュー画面に視線を向ける。


「キツ姉さんはいつでも変わらずに可愛いと思いまして」


「お、おぅ」


 端末から目を離し、チラリとキツ姉さんを見ると、目を左右にキョロキョロとさせて、まだ酒も飲んでないのに頬を蒸気させていた。


「年上をからかったらいかんやろ」


「……」


「ッ!」


 俺の視線に気付いたキツ姉さんは、ジト目で俺を睨んできたが、すぐさま俺は視線を下にさげる。


 メニューを一通り見ていくと、品名の下に数字が二つある。


 どっちの番号を入れれば良いのか分からずに、周囲を見渡して個室の壁に貼ってある紙を見ていく。その紙の中から注文の注意書きを発見する。この店は宴会用の番号というものがあるらしい。

 

「上の1じゃなくて、0が頭についてる番号を言ってくださいね」


「0693と0333や」


 すぐに番号を言われて、その番号を打ち込んでいく。


 俺は酒とか分からないが、メニュー欄には日本酒と説明があった。キツ姉さんは日本酒が好きだ。そしておでんは、オススメ八品盛りを注文した。


 俺は烏龍茶と、キツ姉さんと同じのおでんのオススメ八品盛り、追加で牛すじ二本と糸こんにゃく、たまご二個を頼んだ。



 電子タブレットを充電器に差し、キツ姉さんが見ていたメニューカードも畳んで元あったところに戻し終えた時に、個室の扉が開き、注文した品を持って店員さんが二人入ってきた。


 すぐに持ってきたことには驚いたが、飲み物とおでんを持ってくるだけだし、そんなもんかと思い、テーブルに品を起き終わったところで店員さんに「ありがとうございます」と言うと、二人の店員の内の一人から「また何かあればそちらのタブレットに打ち込んでください」と、マニュアル通りの言葉を貰い、ぎこちない笑顔と共に扉を閉められた。


 テーブルには固められて置かれたおでんとと、空のコップが二個、日本酒の瓶と烏龍茶が入ったコップがある。まず俺は日本酒の瓶を持ち、空のコップに注ぐ。


 そしてオススメ八品盛りのおでんと、日本酒が注がれたコップをキツ姉さんの近くに置く。


 最後に俺は烏龍茶が入ったコップとおでん入った皿を回収する。


 オススメ八品は牛すじ二本、つみれ、大根、こんにゃく、はんぺん、たまご、ちくわ、キンチャクだった。牛すじは二本で一品だったのか。


 俺が食べる牛すじは六本になった。……まぁいいか。


 箸を紙の包みから抜き、キンチャクの中を箸で割ると、中から餅が出てきた。キンチャクは餅キンチャクだった。


 キンチャクを半分に切って口に入れる。


 モチモチとした食感と油揚げが吸っていたカツオだしの旨味がジュワッと口いっぱいに広がって、美味い!


「美味いか?」


「はい、うま……」



 キツ姉さんの問いかけに、素直に美味いと答えようとしたところで、扉がバンっと勢いよく開け放たれる。


 いきなりのことに驚いて、扉を開けた人物に注目する。


「妖狐メイ! 勇くんに何をしてるの!」


 そこには怒りのオーラを纏っている魔法少女姿の愛華がいた。







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