最強の怪人

◇◇◇◇



 今日は仕事も休み、学校も休みだ。岡村を誘って適当にブラブラしようと思ったが、愛華とよりを戻したことだし、デートに誘ってもいいよな。誘っちゃうか?


 スマホの画面をタッチするだけで愛華と電話できる。のに通話ボタンを押せずに、戻るのボタンはすんなり押せる。


 なんか最初に付き合った時よりもデート誘うのに緊張感がある。どうしようか。


 スマホをポケットから出し入れして歩く俺の姿は、どっからどう見ても不審者だ。


「おっ! 勇坊ちょーど良かったわ」


 そのロリボイスは聞いた事あるなと思いながら、視線をポケットにしまったスマホから、上に動かす。すると黄金色の長い髪が印象的な美少女がいた。いや、ロリババアがいた。


 尻尾と耳は消えているが、白のポンチョとそこから見える黒のシャツ、そして紺のスカート。自分の容姿を十二分に活かしている格好で、若作りが過ぎる。清純なお嬢様という感じだ。


「なんでキツ姉さんがこの街に?」


 キツ姉さんの『妖狐メイ』の名は、正義マンや、怪人で知らない奴はいない。という程の有名人だ。そりゃ引退したといっても、悪の組織のNo.1だった人だ、有名人じゃないわけがない。


「いつもいた店にダルマジロンがいないんや。勇坊のピコピコで呼んで、パーっと飲みにでも行こうや!」


 ピコピコと名も覚えて貰えていないスマホを取り出す。


「えぇっと、ダルマジロン先輩はこの前魔法少女との戦いで……」


「そうか」


 俺の声音を聞いてか、キツ姉さんは言い切る前に俺の言葉を遮って察してくれた。まぁ俺の彼女がダルマジロン先輩を倒したんだけど、悪の組織では日常茶飯事だ。仲間や先輩が亡くなる悲しみは、全然馴れてくれない。


「やったら、もう勇坊だけでいいわ」


「えっ? 俺は強制なんですか?」


「わちきの誘いを断るん?」


 ロリババアが可愛らしく、潤んだ瞳と上目遣いのコンボで俺を誘惑する。キツ姉さんにはお世話になってるから、そんなことをしなくても断るわけがない。


「キツ姉さんの誘いを断るわけないじゃないですか! ささっ、どこに行きます。このピコピコで予約するんでジャンジャン行きたいとこ言ってください」


「そうか? わちきは酒が美味いところやったら……」


 キツ姉さんは周囲を見渡して、何かを見つけると、俺の手を引き歩き出した。


「ちょちょっ、どうしたんですか?」


「ここに来るまでに七? 八? たしか八の戦隊と三人の魔法少女を倒してきたから、正義の連中から監視されとるんや。まぁいっときは勝負を挑んでくることはないやろな」


 キツ姉さんは「ほれ」と言って、遠くの人たちを指していくと、その人たちは驚いて隠れる。看板や壁を盾にする奴、ビルの隙間に逃げ込む奴。


 慌てて隠れるから俺でも簡単に見つけられた。


「えっ? キツ姉さん、悪の組織に復帰したんですか?」


「違うんや。悪の組織のとき、世話になった奴の頼みで、今は悪い子の集いっていうとこを手伝ってるだけや」


「悪い子の集い!?」


 俺が驚いていると、キツ姉さんは口角を上げる。


「なんや、勇坊も知っとったんかい。最近出来たゆうて聞いとったけどな」


「俺そこの怪人に戦って勝ちましたよ」


 キツ姉さんに隠し事はできない。


「おっ! そうかそうか。勇坊がか……。欲しいものはないんか? 何でも買ってやる」


 キツ姉さんは俺の胸を叩いて、喜びをアピールする。


「そんなのいいですって。いつもの如く飯奢って貰えればいいんで」


「はぁ遠慮しぃな。男ん子は見ないうちに信じられん速度で成長するもんやなって。まぁ勇坊は怪人になっても勇坊ってことか」


 俺が怪人になったことを知っている?


「俺が怪人になったって誰かに聞きました?」


「怪人を倒すには、怪人になるしかない。そんなん聞かんでも、わちきは目を見たらわかる」


「目を見たらですか? ッ!」


 キツ姉さんから首元のシャツを掴まれて、急に引っ張られた。


 至近距離に綺麗な顔立ちのキツ姉さんの顔があって、そこには真剣な顔のキツ姉さんがいた。


 俺はそんな緊張感から、ゴクリと唾を飲み込む。



「勇坊の目の奥底に、赤と黄色が混ざり合う鮮やかな炎の揺らめきが見える」



 キツ姉さんは「綺麗やな」と言うと、シャツを解かれる。そして真剣な顔はなんだったのかと思うほどに口角を上げ、優しい笑顔のキツ姉さんがいた。


 赤と黄色が混ざり合う鮮やかな炎の揺らめき? 白の炎じゃないんだ。ふとそんな疑問が湧いてきた。


「さっ! まずはそうやな……おでんと酒や」


 キツ姉さんは少し考えて、行き先をおでんと決めた。


「はい! おでんがある居酒屋を探しますね!」


 俺はおでんがある居酒屋を探しながら、愛華にメッセージに送る。『妖狐メイとは絶対に戦うな。会うことがあったら逃げろ』と。








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