歪められる正義

◇◇◇◇



 妖狐メイとブレイジャーズが向かい合う。


「お前は僕たちが絶対許さない!」


「ほぅ、お前さんたちがわちきを止めてくれるんか?」


 心地よい風はピタリと止む。


 無風のさなか、昼間で太陽は出ているのに一気に薄暗くなる。気温が下がり、道に落ちている沢山の影が地面を伝い、妖狐メイに集まっていく。


「行きは良い良い帰りは怖い。その若さが恨めしい」


 メイは笑う顔を引っ込めて、残念そうに惜しむように眉を落とした。



三尾さんびほう 神隠かみかくし』



 ブレイジャーズの背後の影が迫り上がる。


 そして津波のように影がブレイジャーズを飲み込んだ。




 その瞬間に理解した。ブレイレッドは相手にしたらいけない敵を、相手にしていた事に。



 ブレイレッド以外のブレイジャーズの気配が消えた。


 ブレイレッドの息が、途端に激しくなる。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」


 ブレイレッドは目を妖狐メイから離すことは出来ない。左右を見てはいけない気がしたからだ。


「達也いるか!」


 声がしない。


「ッ! 美希!」


 達也も美希も反応がない。


「ウェル!!!」


 精一杯の大きな声でウェルを呼ぶ、だが声が返ってくる事はない。そして……。



「紅葉」


 消え入りそうな声で紅葉と呼んで、ブレイイエローが居た右側に恐る恐る視線を向ける。


 構えていた長剣がダラりと垂れる理由としては、それだけで十分だった。



「さっきまでの威勢はどうしたんや」


「……」


 妖狐メイは声が返ってこない事に落胆すると、ブレイレッドに足を向け歩き出す。カラン、カランと軽い下駄の音が鳴り響く。


 四つの影が地面を伝い、妖狐メイの元に集まっていく。その伝う影をブレイレッドは力ない左手で追う。



 カラン、カラン、カラン、カランと、ブレイレッドの目の前まで来た妖狐メイは、左手を前に突き出し、ブレイレッドに見せつける。そして握っていた拳を解くと、四つの指輪が地面に落ちた。


 その指輪は地面に当たると、ピンッ! と弾んで、バラバラの方向に散らばった。


「あぁ、ああ」


 ブレイレッドは気の抜けたような声を出し、地面に膝を着いて、とろい動きで指輪を集め出した。


 妖狐メイはブレイレッドの横を通ると、ブレイレッドの肩に手を置く。


 ブレイレッドの動きがピタリと止まった。


「正義が必ず勝つ。それは勝ったもんが正義やからや。今回はわちきが勝った。わちきが正義やったんや」


「……違う。お前は悪だ」


 ブレイレッドの返事で妖狐メイの眉が跳ねる。


「そうか……帰りは用心して帰るんやで、次会った時が楽しみやな」


 妖狐メイはブレイレッドの横を通り過ぎる。


 カラン、カラン。カラン、カラン。と、数歩の音を残して、妖狐メイは暗い空気を持ち去って消えた。



 妖狐メイのプレッシャーが抜けたブレイレッドは変身を解いた。暖かな日差しの中で瞬は、四つの指輪を両手で持ち、胸にうずめ、天を仰ぐ。


「なんで、なんで、くっ! はッ! はぁ、ああ、あぁぁぁぁぁあああああああ!!! あああぁぁぁあああぁあぁあああ!!!」


 瞬以外は誰一人もいない、その場所で。瞬はやるせない想いで大声を出し、大粒の涙が溢れた。







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