一言
「ニャ〜」
俺の右手の上に乗っているこの子猫はどこから来たんだと思案する。
白い子猫の纏っている白い炎。そしていつの間にか消えた刀。まぁ十中八九、刀の正体がこの白猫なんだろう。
刀が猫化するなんて聞いてない。
俺と子猫の目と目が合う。
ぷいっと視線を逸らされてしまった。
イケメン君に目線を持っていくと、イケメン君はトドメが来ないことで怪訝な顔をしつつ、ゆっくり目を開けた。
「何故殺さなかった? 悪の怪人なら戦隊ヒーローなんて敵だろ」
俺は流し目で猫を見る。そしてイケメン君に戻す。
「殺さなかった理由ならコイツに聞いてくれ。俺はお前と本気で戦った、それだけだ」
「本気だ、と?」
「あぁ本気だ。お前は何か勘違いをしている。戦隊ヒーローと戦うのは悪の組織の仕事だ。だが殺すのは俺の仕事に入っていない。俺はバイトだしな。
でもお前が、お前自身が、戦隊ヒーローとか関係なしで、殺して欲しそうな顔をしてたから、俺が殺してやろうと思っただけだ」
チッ! と、舌打ちして体育館の出入口に足を向ける。
「殺す気なくなったわ。死ぬなら俺の見えないところで、勝手に死んでくれ」
背後で、トンッ、と力無く何かが落ちた音が聞こえた。
「ニャ〜」
屋上のベンチ。白の子猫は今、愛華の膝の上に乗って愛華に甘えている。
ベンチに座っている愛華の横に座るのは照れくさいので、愛華の前に立っている俺。
愛華と話す切っ掛けを掴もうと、猫に手を伸ばす。すると猫は「シャー!」と牙を出して威嚇してくる。
俺の力だろ! 少しは協力しろや!
力の持ち主に懐かない力というのも珍しい。いや、違うか。力が意思を持ち生物として具現化しているのを見たことがない。まぁ、俺が見たことがないだけで、そういう力もあるのかな。
悪の力なのに正義マンで魔法使いの愛華に懐いているのがどうにも納得できない。元々愛華の力というのが大きいんだろうか?
俺は猫の手助けは借りれないと、意を決して話し掛ける。
「もう俺たち付き合ってる認識で良いんだよな?」
「勇くんが付き合っても良いなら、付き合っていることにしていいよ。私から別れを切り出しておいて、また付き合ってあげるとか、私には都合が良すぎるけど」
拳を力いっぱい握りしめ、俺の正面に腕を持っていく。
「よっしゃぁぁぁあああ!!!」
腕をくの字に曲げると思っきり叫んだ。
俺の大声で、愛華と猫がビクッ! と身体を揺らす。
「い、いいの?」
俺の叫びが静まると、愛華は眉をひそめ、不安そうな顔をしながら俺に尋ねてきた。
「は?」
俺は愛華の問いが分からなく、周囲から見れば俺の頭上にはハテナマークが乱立しているだろう。
「だから……勇くんに酷いことを言って、辛くも当たったのに、また私が恋人になってもいいの?」
「俺も愛華に酷いことを言って、辛くも当たった。でも、一生やることは無いと思っていたブレイドルドも、愛華と付き合えると思うと苦痛に感じなかった」
愛華からスマホにメッセージが来た時、自然に口が動いていた。
俺は、愛華の心を潰して、大事な正義の力を奪い、死ぬことで精算しようとした、けど、死ぬことは許されなかった。
まさかまた付き合えるなんて思ってもいなかった。
愛華を傷付けたこと、俺は後悔していない。時が戻って、もう一度やり直せるとしても、俺は同じことで愛華を傷付けるだろう。
俺は頭を下げ、『ごめんなさい』じゃなく。
「俺と付き合ってください! お願いします!」
真剣な想いは届く。
手を差し出し、返事を待つ。
暖かい柔らかい感触が手に触れ、俺は頭を上げる。
煌めく涙の一雫を流し、愛華の不安そうな顔はなく、頬を赤らめて、
「はい」
の一言を呟いた。
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