ブレイジャーズ

◇◇◇◇



「キャッ!」「だッ!」「なんッ!」「キッ!」「ッ!」


 悲鳴が生まれた瞬間に、あるいはその前に、自分の影が地面から大きくせり上がり、なんも抵抗出来ずに人が影に飲まれ、影は元あった地面に帰っていく。


 老若男女も関係なく、影に飲まれた人が居たところには動かない影が地面に残っていた。





 昼時に賑わうであろう歩行者天国を一人が悠々と歩いていて、もう終わった惨劇を見ることは無く、その一人を塞ぎ止めるように五人が向かい合う。


 悠々と歩いていた一人の長い黄金色の髪がサラサラと舞う。キリッと切れ長の目、吸い込まれそうな緑色の瞳からは柔らかい印象を受ける。


「お前さんたちや、うちに帰りんさい。わちきと戦おうても死ぬだけや」


 頭の上にはピンと立つ、髪と同じ色の二本の耳。そして着崩した着物とそれに似合わない小さな体躯。九ある尻尾の一つを触りながら幼女はニヒルに笑った。



 赤、青、緑、黄、ピンク。五色の色が五人の頭上頭上に綺麗に展開される。


 その色が渦を巻き、直後に出てくるのは肩・胴・手足のプロテクター。


 五人がプロテクターを装着すると、ピシャンッ! と音が鳴り、変身は完了した。


 全身赤のスーツの一人が一歩前に出ると、一歩前までは何も持っていなかったはずなのに、いつの間にか長剣が持たれていた。


「真っ赤な情熱の炎は悪に染まらず、誰もが悪に理不尽に傷つかないために力を振るう。この僕が正義の味方であるために!!! 闘志の戦士ブレイレッド!」


 ブレイレッドが口上を言うと、次は青色の人が双剣を出しながら前に出る。


「静寂の炎は悪に染まらず、仲間が誰も悪に奪われないように力を振るう。この俺が正義の味方であるために!!! 友情の戦士ブレイブルー」


 太っちょな体躯の緑が斧を持ちながら前に出る。


「幸せの炎は悪に染まらず、たくさんの料理を食うために力を振るう。このワテが正義の味方であるために!!! 食の戦士ブレイグリーン」


 黄色が刀を出しながら前に出る。


「笑顔の炎は悪に染まらず、皆んなが平和に暮らせるような世界を作る為に力を振るう。この私が正義の味方であるために!!! 奇跡の戦士ブレイイエロー」


 最後にピンクが槍を出しながら前に出る。


「想いの炎は悪に染まらず、悪の力で想いあっている人達が、離れ離れにならないように力を振るう。このわたくしが正義の味方であるために!!! 愛の戦士ブレイピンク」


 ブレイピンクの口上により、再度横一列に並んだ戦隊ヒーロー。



「「「「「戦隊ヒーローブレイジャーズ」」」」」



 戦隊ヒーローの名を叫んでも、五人は誰一人のズレも無く、相当に口上を言い慣れているのが分かると、クククッ、と声を潜めて笑う幼女。


「このぉ感じも久しぶりや」


「妖狐メイ」


「おっ! 赤いの、わちきの名を知っているのか」


 ブレイレッドに名を言われて、心底嬉しそうするメイ。


「お前の事はヒーローの誰もが知っている。悪の組織の最重要危険人物、実力は悪の組織No.1」


「それは言い過ぎやて。それにして悪の組織ならもうやめて、引退済みや」


「じゃあなんで街の人を殺して回っている!」


「しらん。ここいら一帯の人間を殺せと命令があったんや。隠居して暮らしたかったんやけど、悪い子の集いのメンバーにさせられて、こっちも困っとるねん」


「知らない、だと!」


 予想外な物言いに怒りを覚えるブレイジャーズ。


「お前は僕たちが絶対許さない!」


「ほぅ、お前さんたちがわちきを止めてくれるんか?」


 心地よい風はピタリと止む。


 無風のさなか、昼間で太陽は出ているのに一気に薄暗くなる。気温が下がり、道に落ちている沢山の影が地面を伝い、妖狐メイに集まっていく。


「行きは良い良い帰りは怖い。その若さが恨めしい」


 メイは笑う顔を引っ込めて、残念そうに惜しむように眉を落とした。







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