第3話  無理かも知れない

 狸山たぬきやまポン太郎先生は、古い時代の政治家だった。何もかもが、金で解決出来ると信じてきた人間だ。


 過剰な公共事業で、大手のゼネコンから裏金を巻き上げ、それを資金に多くの政治家を抱き込んだ。


 金を集めるために、かなり悪どい事もしたのだろう。


 ポン太郎先生自身もとても極楽に往けるとは、思わなかったみたいで、タクシーの話しは、渡りに船だったらしい。


 極楽に近づいたのだろう。透き通った人の姿が、増えてきた。


 霊道の幅は広い。


 しかしその両端は、切り立った崖になっており、漆黒の闇が口を開いている。


 もし足を滑らせて、落ちてしまえば、どこまでも落下して、運が良くて地獄へ、悪ければ、地獄を突き抜け、さらに下層へ落ちてしまうらしい。


 しかし、普通は、その心配はない。


 人々が、捨てていった穢れと現世の記憶が、霊道の幅の両端を5メートルほどの間隔で、青い光を放ちながら燃えているからだ。


 青い炎が、目印になって、誰もが両端の光に近づこうとしないからだ。


 極楽に近づくにつれ、穢れが少なくなるからか、青い炎は、まばらになるが、極楽の光が、霊道を照らしている。


 穢れの全てと共に、現世での記憶を失った人々が、極楽の光に吸い寄せられる。


 穢れと記憶を失った者は、来世に向けて無条件で、極楽へ迎え入れられる。


 しかし…。


 突然タクシーに襲いかかる者が数名いた。


 僕は、行灯の光を強くする。すると彼らは

光に触れた部分が、熱くなったように、タクシーから飛び退いた。


「ずいぶん、恨まれているようですね」


 タクシーから離れても、彼らは、狸山出てこいと叫んでいる。穢れも記憶も消せないほど酷い目に遭ったようだ。


「奴らが悪いのだ。治水事業で奴らの村が、沈む時の反対派だな」


 僕は、これなら大丈夫かも知れないと少し期待した。ポン先生は、自分の犯した罪を理解出来ている


「代わりの村を用意してやったのに、反対しやがったから、住民たちの結束を金を積んで切り崩してやったのさ」


「それだけですか?」


「まあ、それでも反対していたから、多少手荒な事もしたが…」


「彼らは、みんなその時の人達ですか?」


「いや、二人ほど政治家がいるな。総裁選で、最後まで、わしの側に付かなかった奴らだ。当選したての新人の頃から、面倒をみてやったのに」


「彼らには、何をしたのですか?」


「同じ選挙区に別の候補を立てて、選挙に敗れた奴らの再就職先に、手を回し無理やり解雇させた。選挙のために作った借金をわしが買い上げ、闇金に売ってやった。確か嫁と娘が風俗に落ちて、息子が自殺。奴も自殺したと聞いていたが…。自殺した者は、地獄行きだろう。なぜここにいる?」


「光に邪魔されて、極楽には入れないでしょうが、この霊道は、地獄にもつながっています。ここにいる事は、自由ですから、ただしいつまでも来世には、進めません」


 おそらくポン太郎先生の極楽行きは、無理かも知れないと思ったが、言うだけは言ってみた。

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