第六章~変わりゆく彼女たちの世界、そして突如の来訪者~




大盛況に終わった光咲キ誇レのデビューから1ヶ月、彼女たちと恭一郎たちの世界は全く違うものになっていた。








ゆめ果はSHOWWITHの他に配信サイトで配信を開始し、日替わりではあるが今も続けている、その効果は顕著に現れ、ライブに来てくれるファンの数も、日に日に増していった。








朱音はモデルの仕事が多くなり、雑誌にも数本載るようになった、アイドルとの二足のわらじで活動していくため最初は不安だったが、今は全くその不安は無い。








柊葉は元サッカー選手と言うこともあって、レッスンの傍らサッカーの雑誌の取材やサッカーの番組に呼ばれることが多くなり、毎週日曜の深夜に放送されている番組にはレギュラーで出演している。








美音は帰国子女と言うこともあり、英会話番組に呼ばれることが多くなっていった、ワールドワイドに活躍していくのには良い番組だと思える。








秋穂はソロアイドルとしても活動を始め、ライブ以外に、ラジオやテレビへの個人出演が多くなった。








恭一郎たちの事務所、plusαには多くの依頼の電話やメールが殺到するようになった、嬉しい悲鳴ではあるが、恭一郎は全く納得行ってない。









(正直、ここまでが上手く行きすぎている、デビューライブで好評だったのは良かったし、ファンが増えているのは彼女たちの自信に繋がりやすい、だが今のままだと彼女たち自身が天狗になってしまう、どうしたら良いんだろう。)










そう恭一郎が思っていると、突然1人の男が事務所に現れた。その男はセブンスターエージェントで働いているマネージャーで、元々所属していたゆめ果、朱音、和奏がplusαで働いてること、最近の目覚ましい活躍などを知り、色々話を伺おうと思い立ち寄ったとのことだった、2人は早速名刺交換を済ませ、そのまま面談に移った。









【初めまして、明石恭一郎です。】










【初めまして、セブンスターエージェントと言う芸能事務所で働く乾恭也と申します。】









【今日はどういったご用件で、こちらにおいでくださったのですか?】









【はい、最近、お宅のアイドルがグループとしても個人としても注目され、どうやってここまで人気にさせたのか疑問に思い、今日は伺わせていただきました。】









【そうですか、実は私にも良く分からないのですよ、どうして彼女たちがわずか1ヶ月でここまで成長できたのか、ここまで人気になれたのか、このまま人気になり続けるのが本当に良いのかどうかも。】










【なるほど、そうだったんですね、恭一郎さん自身でも彼女たちの成長に戸惑いを感じているんですね。


もしよければなんですが、その点を含めまして、我が事務所のアイドルと2マンライブを組んでいただけないでしょうか?この2マンライブは互いの刺激になるかもしれませんし、私たちの今後への自信にもなるかもしれません。】












だがその対バンの話を聞いた恭一郎には、以前からいくつか気になっていたことがあり、恭也に質問をぶつけ、その質問の後、恭也は恭一郎にこう返答した。







【私は別に構いませんが、後は彼女たち次第ですね、特にゆめ果と朱音がそちらの社長の一言が原因で、一旦アイドルを辞めようと思っていたのは、あなたもご存知だと思われます。】









【はい、確かに辞める前の定期ライブが終わった後、ゆめ果と朱音の2人が社長とトラブルを起こしていたことは、そのライブの2日後に和奏から聞きました。和奏も日々不満を持ってセブンスターで働いてたことも含め、色々と愚痴を話してましてね、そして自分自身も今は言えないんですが、大和社長から色々とパワハラや暴言を受けることが多かったです。


だからこの対バンは、社長や他のスタッフからではなく、私自身で考えそちらに提案しました、独断だと思われるのは百も承知で、この2マンのことを打ち明けたのは、私の事務所にいる、信頼できる数人のスタッフです。


しかもこの2マンライブで、互いに本気のパフォーマンスを会場に来てくれたファンに届けてほしい、その上CASIOPEAはアウェーを経験したことがなく、今の状態に至っております、私もこの天狗になっているCASIOPEAに、光咲キ誇レのメンバーの姿を見てもらい、もう一度あの頃の気持ちを思い出してほしいと思ってます。


その為に、皆さんのお力を是非貸していただけないでしょうか、会場や日にちに関しては恭一郎さんを始めとした、お宅のスタッフで色々決めていただければと思っております、検討の方宜しくお願いいたします。】










恭也からの考えを聞かされた恭一郎だったが、それでもなお疑問が払拭できずにいた、そこで更に踏みいった質問を恭也にぶつけ、彼はこのように返答した。











【あなたのこの2マンに対する気持ちは伝わりました、2マンに関しましては我々の方で話し合い、良いお返事が出来るよう、最大限努力させていただきます。


しかしこの話を聞いて更に疑問に思うことがありました、恭也さんはなぜ、CASIOPEAにそこまで熱を入れられるのですか?マネージャーであるからとは言え、聞いていると何か別のことがあるから、2マンを開きたいと言っているように聞こえました。


もし宜しければ、お宅の事務所のことやCASIOPEAのこと、もう少し詳しくお話していただけませんか?そしてあの大和社長のことに関しても。】









【承知いたしました、ですがそれにはそちらのゆめ果さん、朱音さん、和奏、陵介さん、今は名前を変えてると思いますがかえでさんも集めて話を聞いていただきたいのです。


私の方でもCASIOPEAのメンバーと社長以外のスタッフを連れてきます、そしてあなたと陵介さんになら話せるでしょう、どうして私がCASIOPEAに対してこれだけ気持ちを入れられるのか、私の過去に起きたトラブル、それに関する真実を。】







その後1時間ほどかけて面談を行い、あらかた話を進めたところで、恭也はセブンスターに戻っていった、その日の夕方、レッスンを終えたメンバーとスタッフを集め、恭一郎が恭也とのやり取りと、後日の会合のことを話した。







【みんなお疲れさま、早速だけど大事な話があるから良く聞いてほしい、先ほどセブンスターの乾さんが事務所にお見えになった。】










【えっ?恭也さん来てたんですか?】










ゆめ果は驚きが隠せなかった、ゆめ果にとっても恭也は彼女の活動を支える良き理解者だったからだ。










【ああ、乾さんもみんなのことを心配してくれていたよ。そんな乾さんからの提案で、CASIOPEAと2マンライブを行うことになった。


ゆめ果、朱音、和奏にとっては因縁の相手だと思うし、色々思うこともある、だから乾さんは2マンをやる前に、陵介と秋穂含め5人で話をしたいって言ってきた、もちろん参加するかどうかはみんな次第だけど、どうする?】










この質問に対して、ゆめ果はこう答えた。










【私はもちろん参加させてほしいですが、出来れば柊葉、美音、一輝社長、誡南さん、美樹さん、夕凪さんにも参加していただいて、全員で話を聞きに行きませんか?特に柊葉と美音はアイドルとしてもまだ経験が浅く、今回の恭也さんからの話は、彼女たちにとっても良いアドバイスになると思うんです、お願いします。】









【私からもお願いします。】










ゆめ果に続いて、朱音からも賛成の意を述べた。









【2マンやる前に、なぜ私たちが恭一郎さんのプロジェクトに乗ったのか、セブンスターでの活動はどうだったのか、知らない人の方が多いと思うんです、それに大和社長のやり方を聞いて、みんなの反応を知ることで、これからの活動に向けても大きな経験になると思うんです。】










もちろん美音、柊葉、他のスタッフも了承済みだったが、陵介だけは難色を伺っていた、話の後全員を帰らせ、その後陵介と恭一郎でこんな話をした。










【なあ恭一郎、本当に乾さんとの会談は行われると思うか?あの大和社長のやり方で乾さんは使わされただけかもしれないし、彼は本心でやりたいとは思っていないと思うんだけど。】









【でも、話を聞いてると乾さんは大和社長のやり方を本気で嫌っているみたいだよ、表情には強い意思を感じたし、ゆめ果たちのことを今でも本気で心配してるんだろうな。


今回の2マンも独断で決めたって話してるし、本来ならその依頼で終わるところを、乾さんの過去を話すから、お前含めた6人で話さないか?って相談してきたんだぜ、それから、向こうの社長のことでまだ何か隠してるようだったし、秋穂も参加してほしいって話したってことは、秋穂にとっても大事な話だと思うよ。


それに全員で話を聞きに行こうって提案したのはゆめ果だし、朱音からもお願いされた、2人とも過去に立ち向かう覚悟を決めてくれた、その覚悟に応えないと。】










その言葉を聞いた陵介も恭一郎の考えに乗った、陵介が帰った後で、恭一郎は恭也にplusα側は全員参加したい旨を伝えたところ、恭也側も受諾し、大和を除いたスタッフ含め、全員で参加することを伝え、日にちも3日後の20時に設定した。









会場は2人の合意のもと、秋穂が1人でレッスンを行っていたスタジオの隣にあるスナックでやることになった、以前秋穂が数人のファンに襲われたあのスタジオが見えるスナックで、恭一郎はあの一件以降もそのスナックに立ち寄り、ママとは顔馴染みにもなったので特に問題はない。











変わり始めた彼女たちの世界、この乾たちとの会談で、更に彼女たちの心境に変化をもたらすこととなった、そして後に明らかになる裏切り者の存在がいることを、恭一郎と陵介にはまだ知るよしもなかった。





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