第五章~ドルヲタの心はドルヲタにしか知らず アイドルは推せる時に推せ~




恭一郎の予想を遥かに上回って、大盛況に終わったデビューライブ、ではこの日の様子はどうだったのか、とあるヲタクの目線から見てみよう。





7月某日、新宿にあるライブハウス、ここから少し歩けば都庁にも行ける距離にある、ここはそんなビルに囲まれた中にある、集合ビル型のライブハウスだ。









そこに1人の若者がやって来る、SNS上ではりょーいちと呼ばれている男だ。この日は元々メインに推している、オーバーレインボーと言うグループが出るために、対バンに足を運びいれていた。









普段は大学に通っているが、この日は土曜日のため、普通にこの時間の前から電車で新宿に向かい、歩いてライブハウスに着き開場を待っている、普段映画を観てからライブに行くのが、彼なりのルーティーンらしい。








16時頃に列に並び、他のヲタクたちと同様にSNSを見ながら、開場を待っていた、そんなりょーいちの元に、相互フォローをしている男性が近付いてきた、りょーいちとはライブでよく話すので仲が良い。















【りょーくん、お疲れさま。今日もどこかで映画観てから来たの?】











【あっ進藤さん、お疲れ様です。

最近観たい映画が無くて困ってたんで、

今日は普通に近くでご飯食べてそのままこっちに来ました。】















その男は、アイドル現場で進藤と名乗っている、進藤は普段、とある会社で働くサラリーマンで、土日は主にオーバーレインボーを推す1人のドルヲタだ。









進藤はライブ前に、とある可愛いアイドルグループがデビューすることをりょーいちに伝え、そこから今日のライブの会話に弾みを付けた。
















【りょーくん今日のライブなんだけど、

とあるアイドルがデビューするんだって。

りょーくんなんか知ってる?】









【いや全く知らないっすね、オバ虹しか興味が無いんで、他に誰が出ているのやら。】
















りょーいちが言ってるオバ虹とは、ファンの間で呼ばれるオーバーレインボーの略称、いつもオバ虹しか興味を持たないりょーいちは、他のグループに関しては全く見向きすらしたことがない。








そんなりょーいちに、進藤が自身のSNSを見せながら、更にこう話した。



















【この光咲キ誇レってグループなんだけどさ、すっげえ可愛い子ばかりなんだよね、特にゆめ果ちゃん、この前SNSでかなり話題になってた子なんだけどね、他の子も公式SNSを見て、なんかその公式の書き込み見てると面白い子ばかりだなって思えたし、今日気になってるんだよね。】
















りょーいちは進藤の話を耳を傾けながらも聞いていたが、内心ではそんなに興味が無い様子だった。








16時半に開場。オバ虹は19時20分からの15分間のパフォーマンスとなる。








受付で入場料とドリンク代を支払い、ロビーに入った。りょーいちはいつも通りペットボトルの水を頼み、進藤と更に雑談をしていた。








5分後、とあるアイドルがりょーいちと進藤に声をかけてきた、光咲キ誇レの朱音だった。



















【こんにちは、光咲キ誇レと言います、

今日デビューします、宜しくお願いします。】




















りょーいちはそこまで興味が湧かなかったが、進藤が進んで話をしていき、朱音とのトークで時間を潰した。



















【SNSで見ました、今日デビューなんですよね、頑張ってください。】









【ありがとうございます、ちなみにお兄さんたちはどこを応援してますか?】









【オーバーレインボーってところですね。】









【オーバーレインボーさんですか?私たち出番が19時からなので、私たちの次がオーバーレインボーさんになってますね、もしよければ、私たちのことも観ていただければ嬉しいのですが。】









【わかりました。面白そうであれば物販にも立ち寄りますね、今日は宜しくお願いします。】

















進藤のこの話を横で聞いていても、りょーいちはそこまで興味を示そうとは思っていなかった。だが数分後、朱音と入れ替わりでやって来た子にりょーいちは目を疑った。



















【あれっ?柊葉?柊葉じゃないか!!】









【うそっ?りょー?りょーじゃん!!久しぶり。】



















2人が驚いたのも無理はない、柊葉とりょーいちは小学校から高校まで一緒にいた幼馴染みで、大学に進むと同時に、りょーいちは東京へ上京している、その後は連絡すら取っていなかったため、柊葉が光咲キ誇レでデビューすることはこの出会いまで知らなかったのだ。








進藤はこの2人の驚きに付いていけず、りょーいちに質問をする。



















【りょーくん、この子と何か面識があるの?】









【あっすみません、この子の名前奈良岡柊葉と言うんですが、柊葉とは小学校から高校まで一緒で、俺が大学進むときに後押しをしてくれたんですよ。柊葉の試合にも何回か足を運んだことありましたね。】









【えっ?柊葉ちゃんてなにかやってたの?】







その質問に、柊葉が横に入りこう返答した。



















【実は私、高校時代女子サッカーで活躍してまして、りょーは高校の試合も代表の試合も観に来てくれて、りょーが居るといつも勝てる気がして、本当に心強かったですよ。】









【そんな過去があったんだ、なかなか良い話が聞けたな、これ以上は幼馴染みの間柄に割って入るのは失礼かな、そんじゃ後はごゆっくり。】



















進藤が離れた後は再び、りょーいちと柊葉の会話に戻る。



















【今日はどのグループ観に来たの?】









【オーバーレインボーってところ、俺今ドルヲタやってるんだけど、メインの応援してる場所なんだ、さっき朱音ちゃんて子がここに来てたけど、もしかして柊葉も今日デビューする光咲キ誇レってとこに?】









【そうなの、実は私もこのグループでアイドルデビューするんだ、良ければ観てってほしいんだけど、どうかな?】









【柊葉が居るって言うなら、もちろん見させてもらうよ、でもその後の物販行くかどうかは別だけどね、オバ虹終わりで時間とお金の余裕があるかどうか分からないし、曲が俺にハマってくれるのかどうかも分からない、でも本当に余裕があって、このグループが良いなって思ったら、ちゃんと寄りに行くよ。】









【分かった、その言葉信じて待ってるから。】



















そう言うと、柊葉は他のファンにも声かけを始めた、りょーいちは一旦再入場のスタンプをもらい、ライブハウスを後にする、進藤はそのままフロアの方に入った。








18時43分、野暮用を済ませたりょーいちが戻ってきた、そのままオーバーレインボーのライブを見るためだ。








だが最近のりょーいちは、オーバーレインボーに興味を示さなくなっていたのだ、推しが卒業し箱推しの状態で今日を迎えていたからだ。








推しが居た頃は、最前に行って盛り上げをしていたが、卒業後はいつも後方でいわゆる彼氏面をしながらライブを見ることが多く、他のオバ虹のヲタクからも元気がないことを心配されていた、進藤もその1人だったが、あまり気にはして居なかった。








特にこの日の対バンに関しては、更にその面白さが無い状態でずっと観ており、オーバーレインボー終わりでもうライブハウスから帰ろうと言う気持ちで参加していた。








19時3分、光咲キ誇レのデビューライブが始まる、そのまま1曲目を聞いたりょーいちは、あまりの曲の良さとパフォーマンスの出来に少しビックリしていた。









1曲目が終わりmcに移った、そして自己紹介が始まって3人目、柊葉の自己紹介に入った。















【皆さんこんばんわ、黄緑色担当の20歳、兵庫県出身の奈良岡柊葉です。誕生日は5月15日で、この日からプロサッカーリーグが始まったことから、別名jpリーグの日と呼ばれています。


私はゆめ果、朱音と違いアイドルになる前は女子サッカーの選手として高校まで活動してました、また世代別の日本代表にも選出された経験があり、中盤の選手として、みんなをしっかり活かすプレーを心がけていました、サッカーが好きなら、ボランチとパサーと言えば分かるかもしれません。


このグループでもみんなの繋ぎ役として支えていきたいと思っています、宜しくお願いいたします。】















その自己紹介を聞いたりょーいちは、心の中にあったモヤモヤを全て消してくれる存在は柊葉しか居ないと思えたと、柊葉の自己紹介終わりで、人一倍に拍手をした。








その後の曲調も、完全にりょーいちの好きなアイドルソングにマッチし、久々に現場を楽しむ心を思い出させてくれる形となった。








光咲キ誇レのデビューライブが終わり、その後の出番だったオーバーレインボーのことを見向きもせずフロアーを後にしたりょーいちは、一旦ロビーに退避し、少し一服をいれていた。














しばらくしてある場所の物販場所がかなり騒がしくなる、恭一郎の計らいで無料握手会を開催することになったからだ、物販列となっていた列は、その場で握手会列に変わる、一服を入れていたりょーいちはそれを見て急ぎ並び、進藤はオバ虹終わりでフロアーを出て、そのまま光咲キ誇レの握手会列に並んだ。









握手会終了後、そのままチェキ列に変わった。5人分行こうとしていたりょーいちだったが、柊葉に誰も行こうとしない様子を見て、5枚全てを柊葉に渡すことにした。









緊張と不安で、表情が固くなっていた柊葉だったが、りょーいちが来たことでその不安が無くなっていた。チェキを撮ったことが無い柊葉に、りょーいちはルールを最初に理解した上で、色んなポーズや笑顔を大事にすることを伝えた、その後のトークでも、泣きそうになっていた柊葉にりょーいちがしっかりサポートしていった。

















【本当に来てくれるとは思っていなかったから、柊葉も嬉しいし、今にも泣きそうなんだよね。】









【俺も最初はそのまま物販行くかどうかは分からなかった、でも幼馴染みだし、曲の雰囲気も俺にあってたし、最終的に物販行くには躊躇なかったよ。】









【本当にありがとう、出来ればまた柊葉のこと片隅に思ってほしいな。】






【もちろんそれは分かってるよ、また来たときは宜しくね。】









その後も2人のトークは弾んでいき、5枚のチェキ券はあっと言う間に消えていった。その後は柊葉の様子を見守りながら、物販終わりまで見続けた。







物販終了後、りょーいちは物販のスタッフをやっていた美樹に声をかけた。

















【今日は本当に最高なライブをありがとうございました。また機会があれば観に来たいです、それでもし良ければ、これを柊葉に渡してもらいたいのですが。】



















りょーいちは先ほど、野暮用で出ていたときに書いた手紙を美樹に渡した、手紙を受け取った美樹はりょーいちにこう伝えた。

















【こちらこそ今日はありがとうございました、責任を持って柊葉に手渡しさせていただきますね、また光咲キ誇レを宜しくお願いします。】

















そしてりょーいちと進藤はライブハウスを後にした、帰り道、2人は互いに今後のヲタ活に関してと、今の思いを語り合った。



















【進藤さん、俺今後光咲キ誇レと柊葉を応援していきます。これからも現場で会った際は宜しくお願いします。】









【そうか、実は俺も最初SNS見たときから光咲キ誇レが気になってたんだ。だから今後メインは光咲キ誇レになると思うよ、今後とも宜しくね。】

















こうしてりょーいちと進藤の仲はこの日を境にかなり深まっていった。








同じ頃、美樹がりょーいちから預かっていた手紙を柊葉に渡す、帰宅後、彼女はその手紙を読んだ。






【柊葉へ、今日は本当にお疲れさまでした。


フライヤー配りで柊葉が出てきたときは本当に驚いたよ、柊葉がアイドルとしてデビューするなんてね、女子サッカーの選手を続けるものだと思ってたから、こんな形で再会するなんて思っても居なかったよ。


実は俺もドルヲタとしては今最悪の状況なんだ、推しがつい先日突然卒業して、正直そのままドルヲタを辞めようと思ったんだ、でも今日の柊葉の姿が俺をもしかしたら変えてくれるかもしれない、


もしドルヲタをそのまま続けていたら、俺柊葉を推そうと思うし、メインを変える決断が出来ると思う、だから柊葉もアイドルになった自分に自信を持ってやってほしい、また会える日を楽しみにしてるよ。亮一】









その手紙を読み終わった柊葉から、堪えていた涙が溢れ止まらなかった。推してくれる人が居るかどうかも不安で仕方がなかったからだ。







その日の24時頃、柊葉個人のSNSが更新された。








【今日はデビューライブに来てくれてありがとう、そして皆さんのおかげで最高なスタートを切れたよ 。後とあるファンから手紙をもらって、読んでて涙が出ちゃった、本当にありがとう。】









この書き込みを見たりょーいちは、光咲キ誇レを推し続けていくことを決めたと言う。








ヲタの心はヲタにしか知らず、アイドルは推せる時に推せとよく言われるが、推しの突然の卒業がまた次の出会いに繋がることもある、これがまたアイドルの面白さでもある。







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