第二章~誕生!!光リ咲キ誇レ~
【俺に2人を預けさせてほしい。そしてアイドルとして輝く先を観に行こう。】
和奏にこう豪語した恭一郎、だが実際アイドル業界未経験だった彼にとっては、まだ未知数な世界と言える。
そこで彼は独学で、アイドルと言うものを一から勉強することにした、アイドルとしての基本はなにか、アイドル現場に必要なもの、物販で必要なもの、ヲタクの種類、契約書の作り方、契約するときに気を付けることなどである。
仕事をしながらのライブ参戦で、実際の様子を学ぶこともあった。アイドルの有名どころから無名、ライブハウスの種類、そこで働くスタッフの動きなども見ていきながら、わずか1ヶ月ほどで、アイドルに関する知識を手にいれ、自身のアイドルプロジェクトの準備を進めていった。
また和奏とはあの日以降も、しっかりと連絡を取り合っている、アイドル業界未経験で不安を感じている恭一郎には最強の味方を付けることが出来た。
だがこそこそとしていることは、陵介にはバレバレだった。仕事そっちのけで誰かの電話に出ることが多くなったことに疑問を持っていたからだ、そしてある日、出勤する恭一郎を呼び止め、事の次第を聞いた。
【おはよう、そいや恭一郎さ、最近アイドルライブによく参加したり、仕事中によく電話に出るようになったじゃん。あの定期ライブで一体何があったんだよ、あのライブ以降リサルバの2人はステージに出なくなったし、もしよければあの定期ライブで起きた出来事聞かせてもらえないかな?何か力になれるかもしれないし。】
恭一郎は、この前の定期終了後に起きたゆめ果と朱音の出来事を和奏から聞いたことを事細かに話した。そしてアイドルをマネージメントしていく決意も語った。それを真剣に聞いた陵介は、恭一郎にこう語った。
【それならそうと早く俺に言ってくれよ、俺も協力するからさ、後俺自身も和奏ちゃんと現場で話すこと多いから、俺に話したって言っても全然問題ないと思う。】
陵介には幸いにも大学時代に芸能関係を学んでいた知り合いが居たので協力を頼んでみるように話した、恭一郎自身もそれに賛同をし、すぐに取り合ってもらえるように話を進めた。
一方和奏は、あの豪語をしっかり守ってくれると信じて、恭一郎からの連絡を待った。ゆめ果と朱音はその定期ライブ以降体調不良と言う理由でライブを完全に離れていた。ただ和奏からはひっそりと色々聞きながら、活動の再開を待っていた。
それから直ぐ、恭一郎は陵介から紹介された芸能関係の知り合いで、陵介と同じ大学、同じ学部で、主に芸能学を学んできた高森一輝と直接会うことになった、彼は大学卒業後、芸能事務所で働きながら、そのノウハウと貯めたお金で自分なりのタレント事務所を構えたいと思っていた、そして前の事務所を辞める直前、陵介からの電話を受け、今回の恭一郎のプロジェクトに賛同することを決意したのである。
【初めまして、明石恭一郎です。あなたが陵介君の知り合いで芸能関係で働いている方ですね。】
【初めまして、高森一輝です。彼とは同じ大学の同じ学部で学びました、今回の話は彼から伺ってます。僕にも是非協力させてください。いくつかの事務所の候補も用意してますし、出資金も計画立てております、もしよければこれから事務所の内見に伺う予定ですが、ご一緒にいかがですか?】
3人はいくつかの事務所を回り、1ヶ月の家賃や光熱費を吟味していった。そして駅から徒歩5分と近い場所に事務所を設立することを決めた。中はある程度広めの間取りになっていて、家賃もそこまで高くなく、活動拠点としては満点クラスに近い物件であった。
その後事務所への什器の搬入や、部屋の内装を行っていった、その内装作りも一輝の知り合いに手伝ってもらい作り上げた、更に契約書の作成も指導し、準備を着々と進めていった。その準備期間は1ヶ月ほどを要した、そしてついに、タレント事務所を立ち上げるときが来た。
事務所名は【plusα agent】、今までのやり方に+αが出来る人材を育てますと言うモットーを、この会社のコンセプトして始動させることにした、そしていち速く和奏に事務所のことを伝え、その事がゆめ果と朱音に伝えられた。
この時には既に事務所との契約を解除してるため、和奏含めて3人はフリーでの活動を余儀なくされていたが、この事を聞いた途端ゆめ果と朱音は涙が止まらなかったと言う、和奏自身もものすごく嬉しがっていた。
一方、恭一郎と陵介の方でも動きがあった、アイドルのマネージメントを行うという事で、派遣会社を通してサルーンを辞めることになったのだ、恭一郎はもとより、陵介も会社に不満が溜まっていたので、タイミング的に辞表提出は理に叶っていた。
そして迎えた事務所始動日、ここに派遣を経験してきたアイドルマネージャーが誕生することとなった。
社長は高森一輝、マネージャーには明石恭一郎、生駒陵介、藤崎和奏、プロデューサーには一輝の知り合いで、アイドルプロデュースを実際に経験したRYUICHIに委ねることとなった。
更にマネージャー兼スタッフとして和奏以外に3人の入社もその場で伝えられた、男性2人の女性1人が加わることになる。
恭一郎の高校の後輩で、動画クリエイターとして活躍している平澤誡南、陵介の高校の後輩で、甲子園に出場し一時期ドラフト候補にも名前が上がった飯塚美樹、一輝が前に働いていた事務所で経理をしていた、簿記が特技の杉岡夕凪の3人、そしてアイドルの、星野ゆめ果と篠崎朱音も紹介された。こうして9人での芸能事務所生活が始まった。
まずはミーティングからスタート、そこでゆめ果と朱音は恭一郎たちにあることを質問した。
【今後の活動ってどんな感じで動いていくんですか?もしよければ教えてください。】
この質問に恭一郎がこう答えた。
【一応まだ決めてはいないけど、もしなにか意見あるなら話してみてよ。】
その発言を聞いた和奏から、とある提案をした。
【CASSIOPEIAを超えるグループを目指すなら、やっぱり5人が良いと思います、5人ならオーディションも出来ますし、アイドルを実際やりたい人もいるでしょうから、スカウトも出来るかもしれません、それから楽曲は4曲でスタートしませんか?メンバーには負担になりたくないんで。】
それを聞いた全員が納得し、ゆめ果と朱音のグループの人数や曲数、レッスンや細かいルールなども決めていった、RYUICHIはそのことを加味し、色々とネットワークを駆使し、色々とつてに当たってみると話した。
ゆめ果と朱音をそのまま帰らせた後、スタッフたちは残りの3人を見つけるため、オーディションとスカウトを同時平行で行うこと、スカウトに関しては和奏と誡南で人材を探してくること、オーディションには恭一郎、陵介、RYUICHIの3人が選考担当となって開くことを決めた。
その後連日スカウトをして事務所に通し、面接しては不合格の繰り返しだったが、スカウトを始めて37人目、ついに待望の人材を見つける、和奏が見つけてきたその人は、女子サッカーの実力派として高校時代騒がれたスタープレーヤー、全国大会出場の実績や日本代表候補にも選ばれるほどだった、早速事務所に通し1対1の面接が行われた、担当は恭一郎だった。
【名前と年齢、現在の職業を教えて下さい。】
【名前は奈良岡柊葉です、年齢は20歳で、今はバイトをしながら生活しています。】
【今回、アイドルとして活動していくわけですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。】
その質問に柊葉はこう答えた。
【私は元々高校まで女子サッカーをやっていました、大きな大会にも何度も出場し、MVPも獲得しました、世代別の女子日本代表にも選ばれたことがあります、怪我も無く3年間プレーしてました、しかしプロから声かかからず、卒業と同時にサッカーを引退しました、引退してからはずっと人生に悩みながら過ごしてきました。
そんな時にスカウトをしていた藤崎さんから、この事務所のこととアイドルプロジェクトを立ち上げていることを教えていただき、やってみたいと決意しました、勿論アイドルとして活動していくのに中途半端な気持ちでは行きたくないので、アイドルとしての覚悟はできています、これが私の気持ちです。】
今まで受けてきた面接の中で一番長く、熱のこもった30分だった、もちろん結果は合格、その日のうちに柊葉本人に電話で合格した旨を伝えると、良い返事で答えた。そして、ゆめ果と朱音の元にも柊葉が入ることを伝えたところ、2人は感情を爆発させるような勢いで喜んだ。
誡南と和奏がメンバーのスカウトをしているのと同時平行で行われたオーディション、1回目の募集で実際に受験した人は15人、その参加者は数々の業種で働くフリーター、元アイドルやモデル、一般の社会人、大学生、高校生と様々だ。
審査はボーカルとダンス、その他の特技を披露、物販での対応力を見た後、そのまま面接へと移行するというものだった、RYUICHIがボーカルとダンスの審査、陵介が特技を見るのと自身のドルヲタとしての力を活かして、物販での対応力テストを、恭一郎がその後の面接を行い、3人と共に活動できる子を見つけようとした、だが結果は全員不合格、それでもオーディションを続けた、そして柊葉に次ぐ合格者が見つかったのは、柊葉を受け入れてから10日後だった。
2回目のオーディションは36名が参加した、今回の参加者も多種多様な芸歴や学歴、社会人歴を持つ子ばかりだ。
オーディションが始まって16人目、今までよりもかなりはっきりした対応力を持っていて、陵介と恭一郎には強いインパクトを残す子が現れた。
半田美音 23歳。
昔野球をやっていた彼女は、ダンス経験や歌唱力はそこまで無く、RYUICHIはその部分で微妙な反応をしていた、だが今まで鍛えてきた体力を思う存分に発揮した彼女は、特技で反復横跳びを披露、その回数は陵介を驚かせることになった1分間で65回だ。
そして面接に移ると、彼女の1つ1つの言葉に恭一郎は驚きを隠せなかった。
【まず名前と年齢を話していただけますか。】
【名前は半田美音と言います、年齢は23歳です。】
【高校時代は何をしておりましたか。】
【特に部活とかは入らずに、アイドルを目指す機会を伺いながら生活してました。】
【先ほど特技披露で面接官から話を伺いましたが、反復横跳び、かなりの回数を出しておいたそうですね、学生時代何かやられていたのですか。】
【私幼い頃に野球をやっていて、女子野球の選手を目指していました。ポジションはショートで、向こうでは小学校まで遊びではありますが、友達とワイワイやってました。】
その一言を聞いた恭一郎は、美音にこんな質問をした。
【すみません話を遮ってしまうのですが、小学校まで向こうにいたと今おっしゃいましたが、半田さんの生まれはどちらになりますか。】
その質問に、美音はこう答えた。
【アメリカのシアトルと言うところですね、元々両親は日本で育ったのですが、私の産まれる1年前にアメリカに引っ越しました。でも中学校入る前に再び日本に戻ってきた形です。】
それを聞いた恭一郎は、再び女子野球の選手を目指す話題に戻した。
【なるほど、話を遮ってしまい申し訳ありません、続きをお願いします。】
【最初日本でも私は女子野球の選手を目指して頑張ってきましたが、ある日お母さんと出掛けた先でやってた野外ライブで、アイドルが歌ったり踊ったりしていて、キラキラ輝いてるのを観て(いつかあんな輝いてるアイドルに私もなってみたい)と思ったことがありました。
その後中学3年までは女子野球をやっておりましたが、その時からアイドルやりたい気持ちが大きくなり、高校入る前に野球を辞め、その後はアイドルへの挑戦をしながら生活してます。】
美音はその後もしっかりした口調で話し、恭一郎に本気で聞き入らせた、アイドルになれたらどんなアイドルを目指していくか、アイドルになれなかったら将来何をするか、趣味や最近ハマっているものなどを聞き、通常の面接時間より10分長い40分で終了した。
そして最後の36人目、更なるインパクトを3人に残す子が現れた。
矢野下かえで 21歳。
数年前まで実際に元アイドルとして活動していて、実力的には申し分無しだった、RYUICHIは元々彼女のことは噂で聞いたことがあり、評価は絶大だった。特技や物販の対応力に関しても申し分無しで、陵介もそこは評価していた、だが面接に進んだときにその彼女の性格と態度が出てしまい、恭一郎を悩ませた。
【名前と年齢を話していただけますか。】
【矢野下かえでです、年齢は21歳で、元々別のアイドルに所属してました。】
【かえでさんは数年前までアイドルをやっていたのは聞いていました、しかし辞めることが多いと言うことも聞きました。それは何故ですか。】
この質問に、かえではこう答えた。
【確かに私には悪い噂しか流れておりません。でも今まで所属してたアイドルでは、チームプレーが大事だとずっと言われ、エースの引き立て役ばっかでした。それじゃ全く輝けない、自分のスキルを上げた方がマシだと思ったからです。】
その言葉を聞いた恭一郎は、彼女にこう問いかけた。
【でもそれって悪く言えば、ただの天の邪鬼ですよね?本当は自分も他のメンバーも輝かせたいと思っているんではないですか、結局自分が輝きたいだけなのか、みんなを輝かせるために自分を圧し殺してるのか、私にはよくわからないですね。】
恭一郎のこの質問に対し、彼女からこんな返答を受けた。
【確かに自分でも輝こうとすれば輝くことも出来たし、人の引き立て役にもなれた、でもそれは私のやりたいことではありません。】
その後は今までと同様の質問をしながら、30分間互いの気持ちをぶつけ合った、オーディション終了後、今回のメンバーで誰を迎え入れるか悩みに悩んだため、3人とも一旦このオーディションの内容をそれぞれ持ち帰り、結論を出した、それは美音とかえでをメンバーとして迎え入れることだった。
そして5人が揃っての初顔合せの日、ゆめ果、朱音の緊張はMAXまでたどり着いていた、一方の柊葉、美音、かえでの反応は対称的で、美音はかなり緊張していたが、かえでと柊葉はそこまで緊張しておらず、むしろ落ち着いていた、いよいよ、グループとして活動する5人が一斉に揃う時がやってきた。
先に事務所に入っていたゆめ果、朱音の元に、柊葉、美音、かえでが入ってくる、まずは互いの自己紹介とスタッフの自己紹介、それからミーティングタイムとメンバー5人でのフレンドリータイムを設けた。
その間に恭一郎は別室に向かい、この後のメンバーへのサプライズ発表の用意を進めていた、実はメンバー選考と同じくしてグループ名を考えていた、そのグループ発表の紙を作っていたのだ。
1時間後、かえで以外の4人はもう仲良しの次元を越えて親友にまでなろうとしていた。しかしかえではまだこの輪の中に入ろうとしない、その時別室のドアが開き、紙を持った恭一郎が出てきた、そして恭一郎からある発表をこの事務所にいる全員に伝えた。
【みんなかなり仲良くなれたようだね、そんなみんなに重大なお知らせがある、実はメンバー決めと平行でグループ名を決めてたんだ。悩みながらも決めたグループ名だから、みんなもこのグループ名に負けないようなアイドルになってほしいし、このグループで、君たち自身の力を見せつけてほしい、そんな君たちのグループ名はこれだよ。】
恭一郎がこう口を開くと、さっきまで明るく話してた4人に緊張感が走った。かえでは全く表情を変えず、クールに気構えていた、そして恭一郎は持っていた紙を広げ、メンバーや事務所に居るスタッフに見せた。そこには力強い文字でこう書かれていた。
【光咲キ誇レ】
グループ名が書かれた紙を見せた後、恭一郎がこう話した。
【みんなには輝ける力があるけど、まだそれは咲いてなくて、花で言えばつぼみの状態、だからみんながそれぞれ個人でもチームでも咲き誇れるようなアイドルになっていこう、このグループ名にはこんな思いを背負ってるんだ。】
ここにアイドルグループ【光咲キ誇レ】が誕生した瞬間だった。
しかしまだユニットとしては課題が多く残る、リーダーをどうするか、メンバーカラーはどうするか、キャッチフレーズはどうするか、運営側はライブや物販でのレギュレーションをどうするのかなど、デビューまではまだまだ時間がかかりそう。
だが恭一郎は、この状況を楽しもうと考えながらこの時は過ごしていた。この後に起きるアイドルのトラブルに巻き込まれることなど全く考えもせずに。
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