第22話 噂を聞き付けた訪問者(1)

「へー、魔力で施錠する紋章付きの金庫か」


「えぇ。こちらの鍵は、閉じた魔力と同一人物の魔力でないと開かない紋章が刻まれてまして、耐久性も抜群の安全設計ですよ!」


「なるほどな。ドワーフの製作技術に魔術が加わると発展性があるな。これをもらおう」


「ありがとうございます! 金貨三枚です」


 

 買い物を始めてすぐに考えたのは、やはり金の保管場所だった。


 どうやらこの世界に銀行などの預金場所は無いらしく、自分の財は自分で保護するのが基本理念。


 まぁいつ魔族に脅かされるかも分からない生活環境で、他者の力に頼ろうなんて方が筋違いか。



 次に武器でも見ようかと思っていたのだが、増えてきた人通りに居心地の悪さを感じる。

 


『おい、あれワイバーン飛龍の!』

『ホントにエルフと人間だよ』

『たぶんエルフが強いんだよな?』



「広まってるみたいですね……ショーマ様の噂」


「……先に服屋に行こう。周りが獣人とドワーフばかりだから、余計に悪目立ちする」

 


 なるべく下を向いて歩き、辿り着いた衣類店で、サイズの合う服とフード付きのローブを購入した。


 これを被れば外から顔が見えにくくなるし、シャルの耳も隠せるだろう。


 

「シャルは本当にローブだけでいいのか?」


「はい! こんなに上等な品を頂き、すごく嬉しいです♪ ありがとうございます」

 


 服にはあまり興味が無いのかな? 

 普段から髪飾りやなんかで、結構オシャレしてると思うけど、よく分からん。



 ローブを羽織る事で街の散策もし易くなり、立ち並ぶ店舗を端から順に見ていった。


 中でも丁寧に積み上げられた巻物が目に留まり、恰幅の良い店の商人に声を掛けてみる。

 


「スクロール? これはどう使うんだ?」


「よかったら開いて見てみてくだせぇ。一度きりの使い捨てですが、便利なもんですぜぃ」


「ん? 術式が描かれてるじゃないか。もしかして、これで魔術を発動出来るのか?」


「ご名答でさぁ。魔獣の皮で作った特殊な生地に、取引先の魔術師に術式を刻んでもらう事で作っていやす。魔術の効果も下に詳しく書いてあるんで、お好みの物を選べやすぜ」


 

 共同製作までしてるって事は、亜人と人間の関係はそう悪くもないのかもしれない。

 リブラッド王国とブラウニー族に軋轢があっても、魔術師達にはほぼ無関係だもんな。

 リブラッドは魔術じゃなく、魔法の国だし。


 スクロールをシャルと吟味しながら、使えそうな物を七本選んだ。

 複雑な魔術を持ち歩けるのは、単純効果の紋章とは違った利点が多い。

 


「俺はこれくらいで充分だ。シャルも良い物見つけたか? この土系魔術とか面白いぞ」


「いえ、私には必要ありません」


「そうか? 使えない魔力属性や、魔術ならではの効果もあって、便利だと思うけどな」


「ショーマ様がお気に召したのでしたら、私も満足ですよ。他のお店も見てみましょ?」


 

 ずいぶん頑なだけど、こんな物よりもっと実用性のある物に金を使えと言いたいのだろうか。


 要らないと言うなら押し付ける理由も無いし、それまでだけどな。


 とは言え武具なんかのめぼしい物は手に入れたし、他に何を見れば良いのだろう。


 昼過ぎたし飯でも食うか。


 そう考えて飲食店を目指していた矢先に、正面から見覚えのある獣人が歩いてきた。


 真っ直ぐに俺を見ている気が――いや見てるな絶対。


 

「失礼。噂を聞いて君達を探していたんだ。ワイバーンを討伐したという人間とエルフだろう?」


「人違いだ。ここらでその二人は見ていない」


「嘘が下手だな君は。僕の無属性魔法サーチ探索は、一定範囲内のMPマジックポイントを認識出来るんだ。圧倒的な魔力量を誇る二人組なんて君達しかいない」


 

 この虎男、なんか便利かつ厄介な魔法を持ってるじゃないか。


 確かにその力を使えば、魔族相手でも有利に立ち回れるだろう。


 一流冒険者として名を馳せているのも伊達ではなく、戦場で光る能力があったわけだ。



 返答を渋る俺の代わりに、シャルが会話へと加わった。

 


「あの、冒険者のシアンさんですよね。ショーマ様に何かご用があるのでしょうか?」


「僕のことを知ってるなら話が早いよ。今日は君達を冒険者の道へと勧誘しに来たんだ」


「ほう? 強ければ誰でもなれるのか」


「強くなくてもなれるよ。覚悟があればね」


「それならお断りだ。興味本位でくぐるべき門じゃない―――そういうことだろ?」


「ワイバーンを討伐した時点で、君達にとっては門も壁も崩壊したのと同義だけどね」


「まず理由わけを話せ。俺には覚悟する理由が無い」

 


 この辺りには人を頑固にする薬品でもばら撒かれているのだろうか。


 シャルの意思も固かったけど、この虎男もやけに食い下がってくる。


 

「実は近日中に、リーヴェ川の上流にある山脈へ調査に向かうんだ。危険を伴う可能性が高いから、実力のある冒険者に同行して欲しくてね。リーヴァルの街を守る為にも是非」


「リーヴァルってどこだ? 俺は知らんぞ」


「いやこの街の名前だよ。知らなかったのかい?」

 

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