第23話 噂を聞き付けた訪問者(2)

 シアンが俺達を冒険者にしたい理由は分かった。


 正式な依頼として調査に向かえば報酬も出るんだろうし、この街トップクラスの実力者が協力を求めるなら、ドラゴン討伐の実績が光るのも無理はない。



 それにしたって調査だけでこの男が動くのは、些か疑問ではある。


 余程の危険地帯なのか、あるいはすでに被害が出ているのか。


 敵の正体が不明の線もあるな。


 

「この街がリーヴァルというのは理解した。しかしそれ以外が腑に落ちない。ネビュラみたいな国境外の未開拓地ダンジョンなら、わざわざ部外者を誘ってまで調査するのは不自然だ。目的より情に訴える言い回しも裏を感じるが?」


「なるほど、強者の余裕を感じる冷静な分析だ。君はMPマジックポイントが高いだけの男じゃないね?」


「当然です! ショーマ様は大魔術師でありながら、多彩な魔法の才もあるすごいお方です!」


「あのさ、二人して買いかぶるの辞めてくれる? 俺はただMPが高いだけの男だから」


「無駄口は終わりにするね。君には説明を聞く権利があるから、僕は答えに期待しよう」


 

 そう言って薄ら笑いを浮かべたシアンは、馴染みらしい飲食店に俺達を連れていき、表情に反した重々しい声色で語り始めた。



 ***


 ひと月ほど前のこと。

 リーヴァルの北に位置するリーヴェ川沿いの村で、突然魔物の大群が暴れ出す事件があったんだ。


 すぐに地元の冒険者達の手で掃討され、事なきを得たんだけど、大群が出現した原因は不明のまま。


 住民達の証言から魔物は北の山脈から押し寄せたと分かって、一週間後に腕利き達で未開拓地を調べてみると、今度は魔族自体が不自然なほど少なかった。


 更に二週間を準備に費やし、十五名の冒険者による調査隊を送ったんだけど、彼らは未だに帰ってきていない。


 大量発生した魔物は強い何かから逃げ出して山を降り、現在あの山脈は何者かに支配されている。

 そう考えるのが現状では妥当だ。



 僕はギルドの要請に従い、行方不明者の救出と原因解明に努める。


 この街は僕の生まれ故郷だし、被害がここまでくる可能性も捨てきれないからね。


 ***



 シアンの話を聞いた素直な感想が、俺なら気配を消した上で、千里眼クレアボヤンス使って効率良く調べられるのにな――だったなんて、口が裂けても言えない。


 何がいる分からない上、冒険者十五名が殺されてるかもしれない状況じゃ、さすがに単独で行くとか怖過ぎるわ。


 でも俺にうってつけなのは間違い無いし、恐らくシャルもそれに気付いてる。


 難しい顔して、次の言葉に悩んでるの見え見えだもんなこの子。

 


「事情は把握した。しかし助走が長かった割に、俺に白羽の矢が立つの早すぎないか?」


「パーティの一人が噂を聞き付けて、ぜひ君達にお願いしようってね。もう犠牲を出したくないからギルドも少数精鋭で考えてて、遠征を終えたばかりの僕らも駆り出されたよ」


 

 考えてみれば、昨日帰ったばかりのシアンにとっては、かなりのハードスケジュールじゃないか。


 遠征って事は、数日かけてあのバーゲストって魔獣を倒してきたんだろうし、戻った直後に魔族しかいない未開拓地に送られるとか、冒険者ギルドは日本のブラック企業かよ。


 普通の高校生だった俺には、仕事の厳しさを心から理解出来るとは言えない。

 でも出張後に無理難題吹っ掛けられる苦悩、目の前の男を見ながら少しは想像出来そうだよ。

 知らんけど。

 


「時間をくれ。出発予定日はいつだ?」


「遅くとも三日後かな。時間的な余裕は無いけど、僕達も装備なんかを整える必要があるから、明後日か明明後日しあさってまでは掛かるよ」


「本当にせわしないスケジュールだな。少しは自分の身体をいたわったらどうだ?」


「生憎だけど、これでも勝手に動き出さないよう、頭で制御してるところだよ。少しでも仲間が助かる希望がある内に――そう考える度に、走り出してしまいそうになる」

 


 本心からそう言っているのであれば、ここまで暑苦しい奴を俺は見た事がない。


 正義のヒーロー気取りとかじゃなく、これが実際に凱旋ヒーローだったのだから、民衆もバカ騒ぎしたくなる。


 そう納得出来てしまうのだ。



 俺とシャルは食事がなかなか喉を通らず、かなり時間を掛けてようやく食べ切った。


 長話の最中は食事も捗ったのに、それ以上に虎男の後半に出した感情が、何よりも重くのしかかる。


 会計を済ませ、なるべく顔色を変えてないつもりで店を出たが、上手くやれてるだろうか。


 シャルは深刻さが滲み出してるけど。

 


「明日ギルドに行く。土産は今日の返答だ」


「ありがとう。君達は僕より強いだろうから、期待をするなと言われても無理だからね」


「ひとつ認識を改めておく。ワイバーン飛龍を討伐したのは俺一人だ。場合によってはシャルは同伴させない。それでいいよな?」


「ショーマ様!? それは事実ですけど、私も力になれます! 考え直して下さい!」


「驚いたな。ひとりで龍を倒したなんて伝説級だ。冒険者なら最高位の一等級相当だよ。名前は――…ショーマくんでいいのかな?」


「ショーマ・キサラギ。無名の魔術師だ」

 

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