第17話 森を抜けて人里へ(2)
【
人っ子一人いない河原で魔法詠唱が響くと同時に、突風が地面とぶつかり合う。
長さが戻った
低級魔法と言えど、使い手の技量によってここまで調節出来るとは。
「助かったよシャル。さすがだな」
「いえ、咄嗟に
「面積が広い方が、空気抵抗も増すからな。それよりこれ、不法入国にならないよな?」
「大丈夫です。聖者の森は
なんか亜人の国は規制が緩そうだな。
俺なんてイヌイルで魔術師登録した時の身分証しかないけど、それでもなんとかなる気がする。
河原の向こうは広い草原になっていて、畑やそこそこ大きめの家、柵の中で飼育された家畜のような魔物が目に入った。
もう昼過ぎだけど辺りはずいぶん静かだし、環境音しか聞こえてこない。
奥には街があるみたいだが。
「全然人が見当たらないな」
「そうですね。でもあっちの方は賑わってるみたいです。たくさんの人の声がします」
さすがエルフ。指差す先は目でも認識が難しい距離なのに、聴力が人間のそれとは別次元らしい。
犬や猫、兎みたいな耳をした者から、角の生えた人までいる。
あれが獣人か。
動物の特徴こそ持ち合わせているが、見た感じ顔も体型も人間のそれと大差無いな。
とりあえず二人でそこを目指した。
『うぉー! すげぇー!! 本当にあのバーゲストを倒しちまったよ!!』
『さすがシアンさん率いる、最強の冒険者パーティだ!』
冒険者パーティ?
この世界にも、そんなゲームみたいな制度があったのか。
飛び跳ねながら興奮する獣人の列は、中央の通りを挟んでパレードでも見るかのように続いている。
人々の目的はどうやら討伐された魔獣と、それを仕留めた冒険者達を拝む事みたいだ。
巨大な熊と犬を混ぜた様な体に、首まで避けた奇妙な口。
鳥肌が立つおぞましさだ。
「バーゲスト……。南方の砂漠地帯に棲息する魔獣が、なぜこんなところにまで……?」
「お、エルフの嬢ちゃんよく知ってるな。奴らはこっから何百キロも離れた砂漠にいるもんなのに、最近近くの村で人が襲われてたんだよ。それでシアンさん達が遠征に向かって、無事に討伐を終えて帰ってきたところだ」
「そのシアンってのは、先頭にいる猫耳の男のことか? 猫人間はそんなに強いのか?」
「うぉ、人間の兄ちゃんもいたのか。シアンさんは猫じゃねぇ、虎だよ。獣化した時のパワーもだが、剣術の腕がすげーんだ」
この狼男みたいな獣人と話してみて分かった事がある。
この世界には動物っぽい魔物はいるけど、地球と全く同じ動物はいない。だが動物の名前は共通しているらしく、話が噛み合うという謎。
そして虎男への信頼が厚い。
「シャル、あのシアンという冒険者は、
「正確には分かりませんが、獣人族の例に漏れず、あまり強い魔力は感じません。この場にいる数百人の誰よりも、ショーマ様の魔力の方が強大ですよ」
「そうか。獣人族は魔力が控えめなんだな」
「量だけで言えば人間と同等かそれ以下と聞きます。ただ獣人は他の人類種より身体能力が高く、獣化すれば素手で魔物を倒します」
魔法で戦うエルフや魔術を扱う人間とは、だいぶ違った戦闘スタイルみたいだ。
しばらく凱旋パレードを眺めた後、色々教えてくれた狼男に礼を言い、
イヌイルより何倍も店が多いこの街は、目的地を見つけるにも広過ぎる。
道行く人に注目されてる気もするし。
「そこのお二人さん、珍しい組み合わせだな。この街には観光で来たのかい?」
突然話し掛けてきた軽そうな男は、今度こそ猫っぽい。尻尾に縞模様もないからな。
「まぁそんなところだ。――不躾ですまないが、魔獣から剥ぎ取った素材を売りたくてな。この近辺にそういった店はあるか?」
「そうだな、素材の買取屋なら、良い鑑定師のいる店があるぜ。だが魔獣って言っても、ガルムやズラトロクの毛皮くらいじゃありふれてるから、大した金額にならないけどな」
「ズラトロクというのが何かは知らんが、ワイバーンの牙と鱗でも高く売れないか?」
「はぁ!? ワイバーンだと!??」
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