二章 亜人達が暮らす街

第16話 森を抜けて人里へ(1)

「シャル、村は私達で守るから、心配しないで行ってきて。でも時々顔を見せに帰ってきてね」


「もちろんです。皆のことをお願いしますね、スプルース。では、いってまいります!」


 

 最初に俺が目指すのは亜人国家クリミナ。



 とりあえずワイバーン飛龍の素材を持っていたところで、俺には使い道が無い。


 そしてゴブリン小鬼くらいの下位の魔物しか安心して倒せなかった雑魚魔術師に、金品の持ち合わせがあるわけもない。


 だったらこの希少素材を売るところから始めるべきだろう。



 そう思って意気揚々と村を後にするのだった。


 エルフの美少女と一緒に――




 結論から言えば、聖者の森の西方はかなり平和だった。


 魔物も弱い奴しか出てこなかったし、魔獣なんて影も形もない。


 過去に大魔導師が浄化したとは言え、ここまで出来る人間がいるなら、魔族滅ぼせそうだけど。



 そして少し先から水の流れる音が聞こえてきた。

 


「さっきの魔術、すごかったですね!」


「あぁ、短剣ダガーに使ったやつ? 魔術の中では初歩的な技術だし、かなり簡単だぞ」


「そうなのですか? 私は魔術のマの字も存じませんが、魔力の操作がとても綺麗でした」


「それはローレルさんの訓練のおかげだな。それよりこの先の広い川が、クリミナ亜人国との境か?」


「はい。リーヴェ川と言い、北の山脈から流れる長い川ですが、この辺りの川幅が一番広いそうです。クリミナでは、この川で取れる魚料理が名物になってるそうですよ!」


 

 魔法がある世界と言っても、水が暮らしの根幹になっているのは変わらないんだな。



 ちなみにシャルが感心したさっきの魔術とは、短剣の刀身を一時的に伸ばすもので、以前は俺の攻撃手段の要だった。


 対象物である短剣に、魔力を宿した指で魔法陣に似た術式を書くのだが、書くと言っても、文字を思い浮かべながらなぞると表現する方が正しい。

 無属性で発動効果も単純なので、慣れれば三秒で記述可能な初歩の初歩。

 術式の基本法則は全て同様だから、早く他も覚えて使いたいものだ。



 そうこうしてるうちに川岸へと到着し、近場に橋が無い事に唖然としている。

 


「これは飛び越えろということか?」


「いえ、向こう岸で渡し舟をしている人がいまして、手を振れば来て下さるそうです」


「そりゃまた原始的だな。――んで、舟は二隻あるけど、舵取りの姿が見当たらないんだが」


「本当ですね。お休み中でしょうか……」


 

 入国前に躓いた。

 川があるのに橋が無いとか聞いてないし、どんだけ聖者の森は断絶されてるんだよ。


 たまにエルフも買い物に行くそうだが、未成年は他の人類種と必要以上に交流させていなかったらしく、シャルも森を出た経験が無い。


 そもそも結構遠かったからなここまで。

 


「ちょっと魔術の練習を兼ねて渡れるか試してみたいんだが、付き合ってくれるか?」


「もちろんです! 私はショーマ様に従います」


「じゃあ念の為、防御魔法を使っておいてくれ。俺も障壁バリアウォールを張るから」


「えっ!? 危ないことでしょうか?」


 

 俺の案はこうだ。

 まず短剣を頑丈な岩に突き刺して抜けにくくする。

 その状態で胸の前に障壁を張り、短剣を伸ばす魔術を行使。

 延長限界の指定をせず、魔力を注ぐ間ずっと伸び続ける寸法だ。


 今の俺に魔力切れは無いから、術式をそう組むだけで、短剣が如意棒に変わるはず。


 あとは柄の部分を障壁で受けて、自分が後方に上手く飛ばされるかどうか。


 途中で刃が抜けて川に落ちるという心配もあるけど、まぁ落ちたらその時になんとかしよう。

 


「という提案なんだが、どうだろうか」


「うーん……リーヴェ川に危険な魔獣はいないそうですし、やってみましょう!」


「じゃあ防御魔法を使ったら、俺の背中に乗ってくれ。背負って行くから」


「は、はいぃ!」


 

 ちょうど近くに人の身長くらいのデカい岩があった。これを利用しよう。


 だが岩の欠けてる部分に剣を突いても、上手く刺さらない。


 それならばと、下の土壌に突き刺して岩の重量で固定したところ、案外安定感がある。

 これなら斜め上に伸びそうだ。

 


「よし、腹は括ったかシャル?」


「いえ、あの………私、重くないですか?」


「むしろ子どもみたいに軽いぞ。ちゃんとたらふく飯食ってるのか?」


「た、食べてるので大丈夫です!!」


 

 シャルをおぶってみたものの、本当に軽くてびっくりしている。

 身体強化を使ってるけど、荷物込みでもまるで重量を感じない。

 背中に当たる胸の感触も――これ肋骨だな。


 屈んだままで、短剣に記述した術式を発動させる。

 バランスを取る為にも速度が大事だから、初っ端から大量の魔力を注いだところ、目論見通り後方に跳ね上げられた。

 勢い良過ぎてバリアウォールの耐久力が心配なレベル。

 


「すごいですショーマ様! 飛んでます!」


「もう少ししたら魔力を止める。着陸の方が危ないから、絶対に手を離すなよ?」


「あっ、それなら風魔法で衝撃を抑えます」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る