第11話 シャルトルーズ(1)

 感染症の元凶だった魔人を退け、エルフ族の村へと戻った。


 帰る途中に見たシャルの嬉しそうな微笑みは、もう頭から離れそうにない。


 悪魔の実験台にされて手に入った力だけど、それによってかけがえのないものを得た気がする。


 少なくとも誰かにここまで受け入れられたのは、俺の人生で初めての出来事だ。

 


「シャル! 良かった、無事だったのね」


「杖まで持ってどうしたのスプルース?」


「あなたが向かった方角でものすごく強い魔力を感じたから、何かあったのかと思って心配だったのよ。空ですごい爆発もしてたし……」


「あぁ、あれはショーマ様の魔術よ。見張りをしてた魔人を、ショーマ様が追い返して下さったの。しばらくは安心して暮らせるわ」


 

 武装した数人のエルフを見ると、どうやら援軍でも寄越すつもりだったらしい。


 俺の放った魔力は目立ち過ぎたか。

 


「ショーマさん、シャルから事情は伺いました。私達の為に尽力して下さり、本当に感謝しております」


「ちょっと力を試したかっただけだから、そんなに畏まらないでくれ。それより俺が置いていった荷物ってどこにある?」


「それでしたら、私の家で預かってます」


「ありがとうスプルースさん。シャル、ワイバーン飛龍の素材があるけど、見てみるか?」


「見せて頂けるんですか!? ぜひ!」


 

 キラキラと眼を輝かせたシャルと、ついでに興味津々な村の連中に、大袋の中身をお披露目した。

 軽くて頑丈な鱗も、滑らかで大きな牙も、きっとこの世界では相当価値のある物なのだろう。

 


「牙がこんなに大きい……。本当にワイバーンをおひとりで討伐されたんですね」


「突然飛び出してきたから全力で攻撃したら、首だけが残ったって感じなんだよな」


「すごいですね。俺達エルフが束になっても敵いませんし、シャルやローレルさんの強力な魔法だって、たぶん弾かれちまいますよ」


「魔法に長けたエルフでもか。やっぱ人類種が挑むべき相手じゃないんだな、ドラゴンってのは」


 

 驚嘆するエルフ達は満足するまで眺めた後、感謝の言葉を残してそれぞれの持ち場に帰っていった。


 何やら言いたげなシャルだけを残して――

 


「あの、ショーマ様……」


「ん? あぁ、そうだシャル。明日はポーションの材料になる薬草を探しに行くか」


「え!? 今それをお願いしようとしてたんです。どうして分かったのですか?」


「偶然だ。一旦みんなが元気になりはしたが、MPポーションが作れない状況は変わっていない。なら探しに行くのは必須だろ?」


 

 本当は何か頼み事をしたそうな様子だと気付いて、遠慮がちな彼女が俺の力を借りたいとすればこれかな? と、ヤマを張ってみたんだけどな。

 当たったみたいで良かった。

 


「何から何まで頼りきりで申し訳ありません。このご恩は必ず、私の人生をかけてお返し致します! いえ、お仕え致します!」


「えっと、何が言いたいのか分からなくなってきた。とりあえず少し疲れたから、休ませてもらえる場所はあるか?」


「でしたら私の家にご案内致します」


 

 まだ夕方になったばかりだけど、果てしなく長い一日に感じたな。


 夜中にワイバーンを倒して大森林を抜け、明け方にはガルムの群れからエルフシャルトルーズを助けた。


 そのまま病に苦しむ村に力を貸して、流れで魔人族との戦闘まで。


 この異世界に転移してから初めてだらけだったが、これ程までに次の扉を開きまくった経験は無い。


 木と植物のツタで作ったこのベッドの寝心地もまた、人生初体験だ。

 結構心地良いな……

 




「……ショーマ様、ショーマ様、起きられますか? 夕食の支度ができておりますが」


「ん? あぁ、おはようシャル。そうか、いつの間にか眠っていたのか」


「だいぶお疲れだったのでしょう。穏やかな表情でお休みになられてましたよ」


「そういうのは恥ずかしいから、あまり見ないでくれ」


「ふふっ、そんなお顔もされるんですね。年齢だけなら私の方がずっと上でしょうから、恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」


「エルフは長命だって聞くもんな。同い年くらいに見えるけど、シャルはいくつなんだ?」


「二十九歳です。他の人類種ですと、もう成人してしばらく経ってる頃ですよね」

 


 アラサーなのか。作品によっては、千年以上生きてるエルフが美少女だったりするから、思ったよりも衝撃が少なかった。


 見た目だけなら女子高生くらいのシャルが、ひと回り以上年上だと知ったところで、特に接し方も変わらないだろう。


 エルフの中では若そうに見えたし。

 


「俺は十六だよ。あと二ヶ月くらいで十七か。成人するまでまだ三年もあるな」


「あれ? 人間が成人するのは、十六歳ではなかったですか? ちなみにエルフは三十歳で成人なので、私は来年なんです」


「そうなのか? あーなるほど。町にいた時も一人でなんとか出来てた理由が分かった」

 

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