第9話 魔族の監視者(1)
バキッという鈍い音がした方に視線を向けると、風も吹いてないのに木々が揺れている。
恐らく何者かが動かしたのだろう。
その場にじっとして千里眼を使用するも、木に登るような生物はいない。
そこでふと嫌な予感が
「まさか……向こうも
早い段階でその考えに至らなかった事に後悔した。
敵は魔人族である可能性が高いのに、こちらが見つからなければどうにかなるなんて、俺の思考は甘過ぎる。
強い力を手に入れて、慢心していたのだろうか。
使用者の気配が薄れて認識されにくくなるだけで、大きな声でも出せば意識を向けられる。
この魔法を詳しく知ってる者からすれば、不自然な物音やちょっとした違和感で、そこに何かがいると注意を向けられなくもない。
その瞬間から見えてしまう。
今はとにかくこの場を離れた方がいい。
俺はエルフの村に向かって、できるだけ音を立てずに早足で歩いた。
やっぱりバレてる気がするけど。
まずい。まずいまずい。
俺からは見えていないのに、相手からは逃げる様子まで捉えられているとすれば、一方的に
魔物との戦闘ですら、警戒だけは怠らなかったのに。
あぁ、もっとちゃんと話したかった。
一度でいいから、あの艶やかな髪に触れてみたかった……
「シャルトルーズ――」
諦めの言葉の様に名前が口から漏れ出した瞬間、左の方で何かが光を放つ。
それは明らかに攻撃魔法だけど、俺は反応出来ずにただ戸惑っていた。
【
逃げられない。もう終わりだと覚悟した刹那、体の周囲を優しい風が包み込み、地を這いながら飛んできた雷撃を弾き飛ばす。
雷の威力は凄まじかったのに、纏われた風の層はまだ壊れていない。
これが選ばれし者にのみ使えるという風の防御魔法か。
風属性の適性に恵まれるエルフの一族、人間には習得さえ難しい魔法をよくここまで……
一瞬の間に起きた、高密度に練られた魔力同士の衝突に感心していると、村の方角から慌てた声と足音が聞こえてくる。
「ショーマ様!! ご無事ですか!?」
「シャル、どうしてこんな所まで?」
「少し前に良くない魔力の匂いを感じたので、それをお伝えしようと思いまして。さっきの一撃、相手はかなりの手練だと思われます」
「それは分かってる。しかしシャル、なぜ俺の姿が見えているんだ?」
「え? こちらにショーマ様がいらっしゃるからですけど……」
イヌイルで魔法を学んでいた際、使用者が経験を積んで熟練度を上げれば、魔法の効果も変化すると書いてあった。
要はスキルアップがあるという事だ。
俺はずっとハーミットを解除していないのだが、もしかしたら仲間には影響しないみたいな、そんな効果が追加されたのかもしれない。
思い返せば、
これを糧にして実力が付いたとしても、なんら不思議ではない。
「ショーマ様、また魔法が来ます!!」
「――…っ! そっちか!」
【
「す、すごい魔力障壁……! これほど濃密なものを作れるなんて……」
やはりそうか。
初期の頃から使えた防御魔法だが、以前はペラペラな薄い障壁だったのに、今回はとんでもない厚みになっている。
技術的に向上しただけではなく、惜しみなく吐き出せる圧倒的な魔力量も、魔法を強化している要因なのだろう。
二発目の雷魔法は威力を増していたものの、障壁を貫けずに消し飛んだ。
「へぇ〜。アタシの
「お前がオークを使ってエルフの村を襲った魔人か。まさか女だったとはな」
「そういうアンタは人間のクセに、えらく不釣り合いな魔力を持ってるじゃないか。どこで手に入れたんだ? そんな大層なチカラ」
「生憎だが、無駄に
姿を現した襲撃者は、肌の露出が多い服にフード付きのローブを羽織るという、魔導師らしからぬ装い。
野性的で独特な雰囲気を漂わせ、魔獣に似た禍々しい眼光から、すぐに魔族だと判断出来た。
更に雷系の魔法を得意とし、褐色の肌が多いのも魔人の特徴だし、本人も否定していない。
対面してみると別段強そうにも見えないし、プレッシャーだけなら龍族の方が遥かに上だったから、油断しなければいけるかな。
まだシャルの方が強そう。
「気に入らないねぇ。人間のクセに魔人を前にして怯まないその余裕。力量も測れないバカか?」
「ではこちらからも質問で返そう。お前はワイバーンを超えるほどに強いのか?」
「ワイバーン? ホントにバカだろ。あんな硬くてすばしっこい
「そうか。それなら俺はお前の言うバカに違いない。エサにはならなかったけどな」
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