第7話 エルフの聖地(2)

 エルフの村の事情がなんとなく理解出来た。

 分かりやすい解説をありがとう、シャル。


 寝込んでいる人達に偏りがあるように見えるのは、人間の常識で測っていたからであり、ここの住人達にとっては自然だった。


 しかしそれでもこの乾いた咳や、苦しそうにうなされる人々を見て、なんとも思わずにはいられない。


 患者達の様子を確認していると、前を歩いていたシャルが急に部屋の奥へと駆け寄っていった。

 


「スプルース! あまり無理をしないで下さい! あなたまで病に倒れてしまったら、どうするつもりですか!?」


「大丈夫よシャル。今朝はだいぶ回復したって言ったでしょ。この子の容態も、あと一回治癒魔法をかけたら良くなりそうなの」


「ダメですよ! もうMPが空ですって!」

 


 座っている女性が一人いると思ったら、その人が無理して治療に当たってた治癒士らしい。

 ゲッソリした自身の体調をかえりみず、子どもに魔法を使おうとしていたところを、シャルによって止められた。


 こんな状況を目の当たりにしていれば、無謀にでも薬草を探しに行きたくなる。

 


「シャル、もう一人の治癒士はどこだ?」


「恐らく今は自宅で休まれてます。ローレルさんの年齢は私達よりだいぶ上ですので」


「それならそこの人も連れてそちらに向かおう。ここで回復するより安全だし、効率がいい」


「えっと、シャル? この男の人は誰なの?」


「私の命の恩人です。スプルースとローレルさんも、この方に力を貸して頂きましょう」

 


 スプルースと言うエルフの治癒士は、立ち上がるだけでもしんどいらしい。シャルに肩を借りてもふらつく姿は、黙って見ていられない。

 苦肉の策として、少し強引に俺が背負ってみたが、身体強化を常時発動してると軽いな。

 


「申し訳ありません。このようなご迷惑を……」


「気にしなくていい。それよりあなたも体調が悪いだろう? 魔力切れでこうはならない」


「治癒士として、泣き言は言っていられません。私は一人でも多く救わなくては……」


「もしそれであなたが死ねば、最終的に村全体が危機に瀕する。それは無責任ではないか?」


「……おっしゃる通りです」

 


 命を賭して誰かを救おうとしていた人に、ちょっと言い方がキツかったかもしれない。

 あの悪魔の前だと本性が出せるのに、こちらの世界の住人に接すると、どうしても強がろうとしてしまう。



 森の奥にある小さな小屋に入ると、中年を過ぎたくらいのエルフの女性が横になっていた。

 シャルによるとこの人こそが、この村を長年守ってきた治癒士だと言う。

 


「ローレルさん、お邪魔してます。お身体の具合はいかがですか?」


「シャルトルーズ、無事に帰って来てくれて良かった。薬草は見つかったかい?」


「申し訳ありません、薬草は手に入りませんでした。ですがこちらのショーマ・キサラギ様が、私達にご助力下さいます。私もこの方に命を助けて頂いたのです」


「そうだったのかい。ショーマさんとやら、シャルトルーズを助けてくれたこと、感謝するよ」


「礼には及ばん。それより早速だが、治癒士の二人には俺の血を飲んでもらう」


「どういう事ですか? それがシャルの言う助力と関係するのですか?」


 

 ローレルは言葉の意味を噛み締めようとして見えるが、スプルースは明らかに怪訝そうな顔で問い掛けてくる。


 面倒だが理由を説明して納得を得ようと試みると、耳を傾けていたスプルースがあからさまに眉を寄せたので、それを見たシャルが間に割って入った。


 

「ショーマ様を疑うのであれば、私が先に血を飲んで安全性と効果を証明します!」


「いいや構わないよシャルトルーズ。お前がこの方を信じるなら、私も信じるよ」


「ごめんなさいシャル、そしてショーマさん。血で魔力が回復するなんて聞いたこと無くて、咄嗟に身構えてしまったわ」


「無理もない。だが事実だから、怯えずに試してみてくれ」

 


 先程ヒールで治したばかりの手首を、もう一度短剣で斬り付ける。

 今度は二人分だし、魔力枯渇の度合いも酷いから、たくさん血が必要になるだろう。

 そう思って深めに刃を立てたら、思いのほか痛かった。


 それにしても、ヒール回復魔法は怪我や体力には効果があるのに、病気関係には一切効かないんだよな。

 状態異常回復系の魔法や魔術が、そっちの専門分野か。


 

「ショーマ様! 血が……血が垂れています! すぐに器を持ってきますから!」


「あー、ちょっと失礼するよ」

 


 滴り落ちる血を手で受け止めて口に含んだローレルは、驚愕を隠せずに目を見開いている。

 魔力の回復する流れをスプルースも見たのか、同じく信じられないといった形相だ。



 結論から言うと、エルフのMPマジックポイントは確かに凄まじいが、俺の体内を巡るMPポーションも凄まじい。

 数滴ずつ血液を飲み込んだだけで、治癒士達は完全回復した。

 ついでにスプルースの感染症を先に完治させ、治癒魔法を使用したローレルはまた血を飲んで万全の状態。

 


「ショーマ様、傷は痛みませんか?」


「あぁ、ヒールで治したからなんでもない」


「でも剣で斬り付けた時は痛かったですよね。私達の為に申し訳ありません。それから、本当にありがとうございました」

 

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