第6話 エルフの聖地(1)
これは実験だ。
手首を切って出血させ、
この状態で指で拭った血液を舐めれば、自動回復と一緒に多少は
大気に含まれる魔力は、休息中に口を通して吸収される。それを可能とする口内こそが、最も効率良く魔力を抽出する器官らしい。
体内で作られ、それを吸収するまでにラグがあるのは間違いないから、外側から口に含んだ方が早い可能性はある。
「やっぱり血は不味いな。しかし僅かだが効果は証明された。これなら自分以外にも使える」
「ショーマ様、どうされたのですか?」
シャルトルーズの綺麗な顔が少し脅えていて、なんだか心が痛む。そりゃ突然の
しかし今は彼女の魔力不足を解決する為、実践して確かめるしかなかった。
出来る限り穏やかな声音で接し、抱かせた恐怖心を緩和させよう。
頼むから信用してくれ。
「シャル、俺の血液にはMPを回復させる効果があるんだ。騙されたと思って、少しでいいから舐めてみてくれないか?」
自分で言ってて、めちゃくちゃいかがわしく感じるセリフなんだがこれ……
数秒間キョトンとしていたエルフは、恐る恐る手を伸ばしつつ、不安そうに目を合わせてきた。
「あの……傷に触れたら痛くありませんか?」
「それは平気だ。終わったらすぐにヒールをかけるし。それよりこんな胡散臭い話、信じてくれるのか?」
「先ほどショーマ様は証明して下さったじゃないですか。ヒールで減った魔力がたちまち戻り、血を飲んだ瞬間、急激に回復されてました」
そういえばエルフには魔力の流れが感知出来るって、さっき聞いたばかりだったな。
あれが彼女に対しての証明になったなら、不味い血を舐めた甲斐があった。
そっと手首に触れたシャルは、紅く塗られた人差し指を口に含む。するとみるみる内に顔色が良くなっていった。
「すごいですショーマ様! MPポーションを飲む以上に魔力が漲ってきました!」
「そりゃよかった。さっきの話に戻るが、ポーションが作れずに困ってるから、危険地帯まで薬草を取りに来ていた。その最中、魔獣の群れに襲われたという認識で違いないか?」
「はい。エルフはMPが高くても、回復に時間を要する種族です。村で感染症が蔓延し、治療出来る治癒士二人が魔力切れになってしまいまして、今は誰にも治療が出来ないんです。住民の半数以上が病に苦しんでいるのに……」
同じ人類種の中でも、人間は自己回復が特に早い方だと聞いた事がある。
食事や睡眠によって翌日には全回復するのが当然ではなく、エルフにとっては数日かけてゆっくり戻すものなのだろう。
そういった世界観だからこそ、俺の獲得した能力はより一層チート感を増す。
「そうか。薬草を探すのは時間が掛かるから、俺がシャルの村に行って回復させた方がいいな」
「そんな! 魔獣から助けて頂いた挙句、無関係のショーマ様にそこまでお世話になるなんて!」
「治癒士が魔力不足で弱ってる時に、病にも感染したりすれば、村全体が滅びるぞ?」
「ですがそれは私達の問題ですし……」
「俺は手が届かない理不尽に腹を立てるが、それは届くもの全てに手を伸ばしてからだ。あとで自分のせいだと思いたくないからな」
「ショーマ様………では、お願いします」
俺はシャルに案内されながら、森を南西方向に進んだ。
しばらくして辿り着いた涼しげな湖畔を沿うように歩き、その先に簡素な木造建造物が立ち並ぶ集落が見え始める。
エルフは森人とも呼ばれるけど、本当に森の中で暮らしているらしい。
「ここが私達の村です」
「ずいぶんと閑静だな。本当に感染者は半数で済んでるのか?」
「動ける者は木の実や山菜の採集に出ております。薬草探しは大きな危険を伴うので、今は実力的に私ひとりしか行けませんでしたが……」
「やっぱりシャルは強い方なのか。さっきの風魔法も見事だったもんな」
「あの時は同時に身体強化と風の加護を使って対応していましたが、それでも三体しか倒せませんでした。ショーマ様の足元にも及びません」
あれ?
想像以上に高度な事やってたんだなこの子。
エルフは魔術を使わないから紋章が無い。
その分身体能力も魔法で補う必要があるけど、更に防御系の魔法と攻撃魔法も発動していたなんて。通りでガルム達が追い回すばかりで、飛び掛かるのを躊躇ってたわけだ。
「それだけやればMPも枯渇するさ。それより例の治癒士はどの家にいるんだ?」
「あ、はい! こちらです!」
感染症というだけあり、連れられた建造物は他より一際大きくて、広い屋根の下で数十人のエルフ達が寝かされている。要するに一箇所に隔離して、なんとか対処している限界状態だ。
一見する限り若い女性が多く、老人や子ども、男性の患者はあまり目立たない。
「女性が
「いえ、そういうわけではありません。エルフは元々女性の割合が高いんです。人間の方と比べると寿命が長く、妊娠適齢期も長期間に及ぶので、年少者や老年層が相対的に少なくなります」
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