第5話 新たな力の使い方

 俺の声に驚いたのは、魔獣以上に女性の方だった。


 振り返る際になびいた長い金髪が、朝日に照らされて美しく煌めいている。


 思わず木の上から見惚みとれてしまったけど、すぐに気を引き締めて、警戒心丸出しのガルム達を睨み付けた。

 


「そこの女、少し離れろ!」


「は、はいっ!」


 

 この十六年の人生で、俺はまともに美少女と会話した事なんてない。だからつい格好つけて強めの口調になってしまった。


 しかしどうしたものか。エミッションはまだ使いこなせていないし、制御出来ずに巻き込んでしまったら大変だもんな。


 そんな懸念中、ガルム達は都合良く俺に狙いを切り替え、やかましく吠えている。


 空気を読んだ金髪の女性は、その隙に上手く距離をとってくれた。

 あれだけ間合いがあれば、こちらから攻撃に移っても平気だろう。

 


「今度は銃弾をイメージしてみるか」

 


 口に出した通り、小さく凝縮した魔力を高速で撃ち出すイメージにした。

 形や大きさは自由が効くと悪魔が言っていたから、放出する魔力の量だけで全て左右される技ではないはず。


 目論見は見事に成功し、手のひらから発射されたビー玉くらいの粒が、ガルム共の額を次々に貫いていった。

 


「よし、あと一匹か」

 


 四匹倒れたところで、最後の奴が急にきびすを返す。

 一目散に反対方向に走り去ろうとしているけど、仲間を呼ばれたら後々面倒だ。

 


「逃がすかよ!」


 

 若干慌てて木から飛び降り、勢いよく放った最後の一撃は先程までの制御が効かず、ガルムの体を飲み込む大きさで伸びていくではないか。

 そのまま奥の大木を巻き添えに爆発したけど、近くに人とかいなかっただろうな。


 軽く肝を冷やしていたところ、背後からの優しい声に癒され、ゆっくりとそちらに体を向けた。

 


「す、すごいです……。あなた様は高名な魔導師様でしょうか?」


「魔導師? いや、今のは魔法ではなく魔術だ。それに高名どころか、俺の名前なんて誰一人として知らない」


「魔術だったのですか!? 術式を書く間も無かったですし、紋章魔術でこんなに強力なものは見たことがありません」


「あー、発生源がだからな」

 


 右手の術式を見せようと正面に出した瞬間、俺は凍り付いてしまった。


 さっきまで照れ臭くてまともに相手の顔を見られなかったけど、眩しいくらいに瞳を輝かせる彼女は、真っ白な肌と横に伸びる長い耳の持ち主だったのだ。

 


「わぁーっ! 術式を体に刻印されてるなんて、私こんなの初めて見ました! これでも正常に発動出来るのですね!」


「もしかし……なくても、エルフだよな?」


「申し遅れました。私はエルフ族のシャルトルーズと申します。先程は危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございました」

 


 心の底から驚いた。

 アニメやゲームでも美しい姿で描かれるが、実際に目にしたエルフはこれほどの美貌なのか。


 異世界に来て初めて、本気で得したと思えた瞬間である。

 


「別に大したことはしていない。俺はショーマ・キサラギ。無名だけど一応魔術師だ」


「ショーマ様ほどのお方が無名だなんて、今までなにか理由がおありで、身を潜めていらしたのでしょうか?」


「そういうわけではないが。この術式も他人に刻まれたもので、俺自身の実力とは関係ない」


「術式刻印もそうですけど、ショーマ様からはものすごい力を感じます。私の知る限りでは、ショーマ様以上の実力者はおりません」


「分かるのか? 俺の力量が」


「はい。エルフは魔力の扱いを得意とする種族ですので、その流れを体感できます。ショーマ様からは壮大な雲に包まれる様な、そんな果てしない魔力を感じますよ」


 

 なるほど。

 人間には直接感知出来ないエネルギーでも、他の種族が同じとは限らない。エルフ特有の感覚器みたいなものが備わっているのだろう。

 


「えーっと、シャルトルーズはなぜガルムの群れと戦ってたんだ?」


「よろしければシャルとお呼び下さい。実はある薬草を探しておりまして、ネビュラ大森林の手前まで来ておりました。そこであのガルム達と……」

 


 語り始めたシャルトルーズは、少し青い顔をしている。

 さっきまで魔獣に対して風魔法を連発していたから、魔力の消耗による一時的な疲弊だろう。

 どことなく貧血に似た弱り方だし。

 


「一度座れシャル。顔色が悪い」


「すみません。少し疲れが出てしまいました。その……探している薬草も、MPポーションの製造に必要なものなんです」


「MPポーションの為か……」

 


 俺の体内で生成されてるMPポーションは、体液に混じって体中を巡ってるって言ってたよな。つまり血液なんかにも、MPマジックポイントを回復する効果がないとおかしい。

 これは考えるより実践して確証を得る方が手っ取り早いだろう。


 俺は腰に下げた短剣を手に持ち、手首に押し当てた。

 


「ショーマ様!? 一体なにを!?」


【ヒール】


「えぇっ!? 私にではなく、その傷口に回復魔法ヒールをお使い下さい!」

 

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