第4話 特別としての旅立ち
悪魔に指示に従うのは
確かに鱗は剥がす際も傷ひとつ付かないし、とても生物の体の一部とは思えない。
これまで倒してきた魔物とは別次元だと実感したところで、それを跡形もなく粉砕した自分の異常な力にも背筋が震える。
「おい悪魔、このネビュラ大森林ってのは、イヌイルからどれくらい離れてるんだ?」
「あー? お前様に伝わる例え方をするなら、アメリカ大陸っての横断するよりも遥かに遠いな。 またあんな寂れたとこに戻んのか?」
「そんな長距離を拉致って来たのかよ!?」
「別に眠らせて転移魔法使っただけだから、大した手間も無いさ。まぁ帰りは契約者様が、自身のご立派な脚で走ってくれや」
「この近くに人間の街があるのか?」
「いーや、周囲は魔族の領域だ。ネビュラ大森林を西の方に抜ければ、亜人国家クリミナがある。距離で言うならそこが一番近い」
「亜人の国か。まだ亜人は見た事ないな。どのくらいの距離なんだ?」
「んー、三百キロもないと思うぞ」
五千キロくらいあるアメリカ横断に比べればだいぶ近いけど、それでも結構遠いな。
まぁ今の俺は身体強化を発動し続けられるし、疲れたら
もうだいぶ夜更けだけど、昼頃まで走り続ければ行けそうな距離ではあるか。たぶん……
「一時は恨んだが、結果的に世話になったな悪魔。このチート能力、ありがたく使わせてもらうわ」
「成功例はお前様ただ一人だ。その体に何が起きてるか全ては解らねぇから、ちょいちょい経過観察しに顔出してやるよ」
「へー、MPポーションの生成だけじゃない可能性もあんのか?」
「少なくとも
「やっぱ前より上限増えてたのか。数値とかで見れれば分かりやすいんだけどな」
最後に悪魔がしてくれた説明によると、この世界の個人MPの平均を仮に百とすれば、俺はこちらに来た時点で五百近くあったらしい。それがドーピング後、更に二倍以上に増してると言うのだから、平均値のおよそ十倍に相当する。
全く減らないから少なくても良さそうだけど、これがエミッションの破壊力にも繋がるから、なかなかありがたい話だ。
少ない所持品に先程の戦利品を加え、いよいよ悪魔の根城とおさらばする。
正面切っての戦闘であれば怖いもの無しだが、不意の襲撃や複数の魔族を相手にするのはさすがに危険だ。念の為補助魔法を使っておこう。
【ハーミット】
「うぉ、気配を隠す魔法か。マジで偏屈な魔法ばっかり修得してやがる」
「
「スパイでもアサシンでも好きにやってくれ。なにしてようが良い実験結果を拾える」
「生活に困ったら考えるわ。じゃーな」
魔法で消費するMPの心配をしなくていいのは最高だな。
以前なら突然効果が切れたりしないよう、注意を払いながら慎重に使っていたけど、今後一切その必要は無い。
ハーミットの効果は、透明人間になるのと系統的に似たようなもので、他の生物の意識から使用者の存在が外される。つまり目に映る姿や存在感が限りなく薄くなり、敵に気付かれにくくなるのだ。
ピンチの時はこれを使って生き延びてきた。
逆にこちらからはクレアボヤンスを使って、周囲の状況を探れる。
この魔法は遠くを見渡す千里眼であり、壁の向こう側も見れるから透視にも近い。
移動しながら複数の視界を把握するのは難しいものの、向かう先が安全かどうかくらいは分かる。
「――なんだよこれ。魔力切れの心配が無くなるだけで、魔法ってこんなに便利になるのか? 力が抜ける感覚って結構障害だったんだな」
メンタル的な理由はもちろんあるだろう。
しかし体力とは違った、魔力消耗による疲労感。
そしてこの世界で生きていく緊張感。
それらからの解放感なのか、ドーピングによる副作用なのか、今まで以上に魔力のコントロールがスムーズに感じている。
体力を常に最大にしておく為、定期的に
後方から日が差し始めた頃、一キロくらい先の森の外れで、狼の群れと戦う人影らしきものが。
どうやら女性らしい。
「あれは……ガルムの群れか。近くに五体はいるけど、よく死なずに済んでるな」
もちろん赤の他人だし、助ける義理はない。
だがつい先日の俺は、あのガルム一匹を相手に逃げ惑い、役立たずの烙印を押された。
強大な力を手に入れた今なら、失った自信を取り戻せるはず。
そして勇敢に立ち向かう彼女に対しても、こんな嫉妬心は抱かなくなるだろう。
数メートルまで近付いた所で、高い木の枝に跳び乗り、そこからガルムを怒鳴り声で威嚇した。
「動くな!!!」
「えっ!!? な、なにごとですか!?」
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