第3話 常識外れの魔術(2)

 轟音と共に放たれた砲弾をイメージした魔力は、直径二メートルくらいあった大木の幹を一瞬にして粉砕した。

 先に撃ったカス当たりの五十倍相当になる魔力量だと思うけど、これ程の威力になるのか。だいぶ侮っていた。


 

「あのさ、フレイム低級火属性魔法二十発分のMPマジックポイントが、最上級の炎魔法一発より消耗多いって知ってるか? いや知らんよなお前様は」


「あぁ知らん。百倍くらいかと思ってた」


「お前様は魔法の才能も魔術の知識も無いが、魔力保有量MPの上限だけならはなっからこの世界で最高クラスなんだわ。それも知らんよな?」


「比較しようとも思わなかったからな。そんなに俺の能力ってぶっ飛んでたのか?」


「MP以外は平均レベルだが、とにかく異質な存在なんだよ。なにせ俺も知らない魔力が無い場所から、悪魔召喚を成功させた特例だからな」

 


 ピンとこなかったから詳しく説明を聞くと、どうやら元いた世界には魔力が存在しないだけで、存在した場合の保有量の潜在値はあるのだとか。

 更に悪魔こいつの召喚には、術式を完成させる難易度以上に召喚者のMP上限が重要になり、たまたまどっからか魔力を溜められた俺は、偶発的に召喚出来たのだろうと語る。

 こちらに来て三ヶ月、俺は潜在能力とゲーム知識だけで生きてきたんだな。

 


「なんとなく理解した。つまりドーピングとこの術式を手に入れた俺は、最高クラスの攻撃力を誇るってことだよな」


「最高クラスどころか、攻撃だけならすでに人類最強と言っても過言ではない。ちなみにその魔術にはエミッションって固有名称がある」


「エミッション……。名前はなんか弱そう」


「放出って意味だぞバカ契約者様よ」


「とりあえずこのエミッションを使って、この森にいる魔獣を狩ってみるか……」

 


 魔法は使う際のイメージを明確にする為、必ず名前が付けられている。

 しかし魔術は術式や紋章自体に効果が記載されており、名前の無い物が多いと聞く。

 放出の意味を持つエミッションは、やはり特別なのだろう。


 強力な攻撃手段を手に入れた俺は、早速その威力で強い魔獣を倒してみたくなり、辺りを探れる補助系魔法の名称を唱える。

 


【クレアボヤンス】


「お、なんだ? 千里眼なんて変わった魔法が使えるのか、お前様は」


「うお、デカいトカゲがあちこち彷徨いてるし、こっちに飛んで来てるのもいるな」

 


 巨大な翼を持つ二本足のドラゴン。恐らくあれがワイバーンだ。

 いきなり強敵らしいのが相手とは、運が良いのか悪いのか。

 まぁワイバーンって聞くと、RPGロールプレイングゲームではそんなに強い印象を受けないんだけどな。


 そうこうしている内に突風に煽られ、上空から敵が見下ろしてきた。

 


「あー、向かって来てたのはワイバーンだったのか。お前様の試し撃ちにはいいかもな」


「さっきは歯が立たないって言ってなかったか?」


「エミッションの発動を実際に見たのは、俺も初めてなんだよ。あれだけの破壊力なら、ワイバーンの鱗もぶち破れるだろうさ」

 


 鋭い眼光で睨み付けてくるトカゲ面は、獲物を定めたかのように唸り声を上げている。

 バス一台分くらいありそうな巨体で突っ込まれたら、障壁を張ってもタダでは済まないだろう。


 痛い目に遭うのはごめんなので、俺は空を掴みにいくように右手を突き伸ばした。


 

「当たってくれよ!?」

 


 魔力を放出する刹那、脳裏をかすめた嫌な記憶――

 ガルム相手に速度の遅いフレイムは通用せず、遊ばれるみたいに全て躱されたあの日の屈辱。


 もうバカにされるのは懲り懲りだ。

 この一撃は必ずあの龍ワイバーンに当ててやる。


 気付けば保有する全魔力を、考え得る最高速度に乗せて撃ち放っていた。

 


「ブワッ!! アホかお前様は!!」


 

 敵の長い首から下は魔力の砲撃で瞬時に消し飛び、空中に残った頭部だけが落下してくる。

 


「……とんでもねぇなこれ。撃ち出した魔力は一体どこまで飛んでったんだ?」


「あんな高密度な魔力、そう簡単に消えやしないさ。空に放ったから良かったものを、下向けてたら地形まで変わってただろうぜ」


「お前って悪魔のクセに変なとこ常識的だな。悪魔的には誰かに迷惑掛けたって、痛くも痒くもないだろ?」


「馬鹿言え。魔人族に被害なんて出たら、せっかくの俺の中立な立場が台無しだわ」


「悪魔も立場とか気にしてんのかよ。てか本当にこの世界ってなんなんだ? 人種にも色々あるとか、魔人がいるってのは文献で読んだけどさ、ゲーム感覚だったからなぁ」


「それはお前様自身で調べるんだな。俺が口出ししてやれんのは、そのワイバーンの首を今すぐ屋敷に運んで、素材剥ぎ取ってデカい街でも目指せってとこまでだ」


「やっぱり龍の素材は、他の魔獣の物より高く売れるのか?」


「ワイバーンの鱗は鋼よりも硬くて希少だし、牙も武器の材料になる。そもそもワイバーン狩れる人間なんてロクにいねぇんだよ」

 

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