第5話 やるべきこと

 地下室でナスタチウムの一員になったあの日から早くも1週間ほど経とうとしていた。


「なにも…ない。」


 そう。何も無いのだ。もちろん毎日のルーティーンと化している町でのタンジー探しは続けているが最近は誘拐事件が起きていないようで(平和なのはいい事だが)何も収穫がない毎日だった。


「もしかして全部夢?嫌、さすがにそれはないよな。」


 今僕は連絡手段はどうするとかまず初めの仕事は何だとか聞いておかなかった1週間前の自分を殴りたい。聞けよ!!向こうも困ってたらどうすんだよ!!どうすればいいのか分からないのが1番不安だよ!!


 今僕が足止めをくらっているこの時間もあいつはどんな目に合っているのか分からないのに、のんびり授業を受け平和に過ごしている自分にはたまに嫌気がさしてしまう。




「おい、カランお前大丈夫か?さっきから1人で顔面七変化してるぞ??ブツブツなんか言ってるし。」

「いや、顔面七変化ってなんだよ。というか声出てたか?それは申し訳ない。でも体調とかは別に悪い訳では無くていつも通りだから安心してくれ。」

「それでいつも通りなのも普通にやばいけどな。ま、元気ならいいけどさ。」


 ここが学校だということをすっかり忘れていたようだ。ちなみに今話しかけてきたのは友達と遊ぶ時間をもタンジー探しに費やしたせいで決して多いとは言えない友達のうちの一人である。いつもありがとう、遊びの誘い断り続けてごめんな。







 学校終わりは今日も今日とて街へと足を運んでいた。


「それにしても本当にどうやって連絡を取ればいいんだ?あそこにまた行くにもどうやって行ったのかあんまり覚えてないんだよな…」


 記憶力には割と自信がある方だったがあの場所への行き方を思い出そうとするとまるでモヤがかかったかのように上手く思い出すことが出来ないのだ。




「やあカラン君、1週間ぶりだね。」

「うわっ!」


 ぼーっとしながら帰り道を歩いていると突然後ろからかけられた声に思わず驚いてしまう。


「あ、リンドウさん。こんにちは。」

「はいこんにちは。ちょっと忙しくてね、会いに来るのが遅くなってしまったよ。」

「いえ、大丈夫です。」

「ならよかった。突然だけど君は所属したばかりだからまずとある特別訓練を受けてもらいたいんだ。」


 訓練…?タンジーを探すのとなにか関係があるのだろうか。特別ということば少し引っかかる。


「え、訓練ですか?」

「そう、訓練だよ。君の学校が次お休みなのは…あ、3日後だね。それじゃあその日この地図にある場所へ一人で来てほしい。講師はもちろん呼んであるから詳しい内容についてはその人に聞いてくれ、それじゃあ検討を祈ってるよ!」 

「え、ちょっ!!」





 いや!講師って誰ですか!どんな服装で行けばいいんですか!!!聞きたいことはまだまだあるのに居なくなるのが早い!!!リンドウさんはいつも突然現れて突然消える、まるで幽霊みたいだなあ…




 正直腑に落ちない部分も多いけれど、やっと自分がやるべきことがわかった気がする。

 こうして僕はまた一段と決意を固くする。


「…待ってろよ。」















・・・


3日後


「動くことを想定してジャージに、メモとペン、前に貰った地図、これで大丈夫かな。」


 荷物の確認を終えて改めて地図で訓練の場所を確認する。


「この指定された場所、念の為昨日下見に行ってみたけど何も無かったんだよな…」


 そう。何も無かった。昨日下見に行った僕の目の前に広がっていたのはただの平原。当たりを360度ぐるりと見渡しても人工物はひとつも見当たらなかった。


「あんなところで特訓って…一体何をやらされるんだ?」



 まあ、行かなきゃ何も始まらないか。



 何も無い野原での訓練。この時の僕は部活のように走り込みをしたり、筋トレをしたり、そういうことを想像していた。しかし後に僕は自分の考えが甘かったことを痛感することになる。


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