第3話 ナスタチウム

「…おい、今なんつった。」

「聞き間違いでないとしたら、確かにタンジーと。」

「その子がタンジーとどう関係があるのかしら?」


 空気が変わったのを感じる。どうやらこの場にいる人はみんなタンジーに何かしら関係しているようだ。


「少年。」

 リンドウさんは周りからの質問には答えず僕に向き直った。

「君、タンジーについてどのくらい知ってる?」



 突然の質問に少し戸惑ってしまう。

 タンジーの花について?この人たちもタンジーについて何か知ってるのか?そもそもこの情報は話していいものなのか?


「安心しろ少年、ここに居るものは目的は違えど志は同じさ。」


 目的は違えど志は同じ?

 よく分からない状態ではあるがここでタンジーの花について話さないと、あいつを見つける鍵がまた遠のく、そう頭で警報が鳴り響いている気がした。


「僕は、3年前幼なじみが行方不明になりました。その時たまたま家の傍にこの花が落ちているのを見つけたんです。毎日通っている道ですから普段無いものに気づけましたが、隠れるかのように置かれてたからたぶん僕以外には気づいてないと思います。」


「それから?」

 どうやら見つけたキッカケだけでなくそれから今日までに着いても話さないといけないらしい。


「えっと、それからは毎日学校帰りに街へ行って、同じように子供がいなくなったという話を聞いてはその家周辺でタンジーを探してました。…タンジーの花が唯一の手がかりだから…。」


「ふむ、それで君はいったい幾つ見つけたんだい?」

「家にある分も合わせたら…ざっと30本くらい…」



 ザワッ

 話を聞いていた人達が動揺する空気が伝わってくる。

 「30本か…」「年間10本てことよね?1人で。」「じゃあこの辺でタンジーを見つけられなかったのは…」「でも、だからといって巻き込むのは違うだろう。」



 もしや僕はまずいことを言ったのだろうか…。数を誤魔化すべきだったか、。それよりも『見つけられなかった』ということはもしかしてこの人たちもタンジーを探しているのだろうか。それならリンドウさんが僕に声をかけたのも納得出来る。




「だーもう拉致があかねえ。」

 いかつめの男性が僕へ向かってくる。


「いいか、よく聞けよガキ。お前の幼なじみを攫ったって奴らはあらゆる悪の頂点とも言えるような組織だ。俺たちはお前と同じくそのタンジーを手がかりに奴らを追っている。理由はお前みたいな人探しから様々だ。いまリンドウはお前をこの組織に所属させて一緒にタンジーを探そうって言ってるわけ。」


 ここにいる人たち皆がタンジーを追っている…これは正直僕にとっても好都合だ。まだ学生である僕じゃ遠くの町へは行けないし、1人で集めるのにも無理がある。今はただタンジーを集めるだけでアイツに繋がる情報は無いし、協力者が増えるなら願ってもない。


「それじゃあぼくもこの組織に…!」




「ただし」




 入りたい、そう伝えようとした矢先、厳つい男性は僕の言葉を遮るかのように言い切った。





「命の保証はねえぞ」














 考えが甘かったかもしれない。僕が追っているのは何度も犯行を繰り返しているにも関わらず捕まらいような犯罪者だ。アイツを探すということはそんな奴らに面と向かって対抗しなければいけないということ。『命の保証はない』、つまりこの人たちは命のやり取りを奴らとしたことがあるのだろう。そしてこの組織に所属するということは僕自身にもその危険が迫るということだ。





「当然アイツらはこっちがガキだろうと手加減してくるような奴らじゃねえ。誰だろうと邪魔になるやつは排除してくる。こっちはそれも承知の上で追ってんだ。」


「おい、流石に話しすぎじゃないか?」

「いいから黙ってろ。」

 1人から静止が入るが厳つい男性らそれを一蹴して話し続ける。



「お前にそんな覚悟はあるのか?」


 僕に自分の命に変えてでもアイツを助けに行く、奴らと戦う覚悟はあるのか。怖い。本当に怖い。怪我をするのは怖い。悪い奴らに立ち向かうのは怖い。命を落とすのは怖い。

 でも、それよりも怖いのは…



「…もちろん、お前がそんな覚悟を決められなかったとしても一瞬でも巻き込んじまったからな、お前の幼なじみは俺たちの方で探してや「いえ」





「たとえ命が危険にさらされようと、僕はあいつを探しに行きます。」





 そう。僕はあいつを1度は守れなかった。でも…



「『あなたを守る』そう約束したんです、アイツと。」









「決まりだね。」


 静まり返った地下室がリンドウさんの一声で動き出す。


「そういえば名前を聞いていなかったね。少年、君の花の名は?」

「カランコエ、僕の花の名はカランコエです。でも、僕には今この名を名乗る資格がないのでどうか『カラン』と呼んでください。」

「ふむ、カランね、それでは改めまして、我々はタンジーを追う者が集まった組織、ナスタチウムだ。そして私はこの組織のリーダーのリンドウ。我々ナスタチウムは新たな仲間を歓迎しよう。」



 アイツへと繋がる歯車が3年越しにやっと動き出した。

 待ってて、今度は必ず『あなたを守る』から。

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