第10話
「
僕が
「なんだ? 扉を開けて招き入れるとでも思ったか? 残念だったなぁ、
僕に身構える隙も与えず、
「ところで俺には、どう見ても空っぽなんだよな。
鍋の中には白濁した瞳を
よく視る為に、中にある男の顔を僕は恐々覗き込む。
その苦悶に歪む顔、ドス黒く変色した血がごわつき固まる髪、顔に擦れたように残る指の跡、その
切り落とした後も頭を愛しげに抱え、何度も唇を這わせたに違いない様子を想像すると、そのあまりの
「……頭は、あります。鍋の中から僕たちを見上げていますよ」
「ふうん。持ち上げて逆さまにしたらどうだ? 落ちたりするか? まてよ。使っても洗ってもこの状態なんだったな。となると……つまんねぇな。どうやっても俺には視えそうもないか。あの人形みたいに鍋が動いたところで、感動もクソもないし。やっぱ身体の方を連れて来なきゃ話にならな……」
「や、勘弁してください。
何が起こるか誰にも分からないことを何故、考えもなしにしようとするのか。僕は思わず
「まあ、霊障とやらを目の当たりにする良い機会かと思ったが……それで店が滅茶苦茶になるのは面倒だもんな。仕方ない。だが、片付ける
「え、そこまで考えていて……何でそんなこと言うかな。どうなるとしても店ならまだ良いですよ。僕自身がどうなるか分からないから嫌、なんです!」
「じゃあ、視えるなら
「……ッば、馬鹿なんですか? 今、僕が言ってたこと聞いてました?」
手を入れてみるか、と言いながら床に置いた寸胴鍋の前に、しゃがみ込むとそのままの格好で僕を見上げるようにしていた
「で、お前には何が視えた?」
笑いの発作が治った
「それはまた、随分な愛されようだな」
「……愛、ですか? 相手を殺してまで手に入れるものなんですか? それで愛は、手に入ったのですか? こんなの妄執の果ての狂気じゃないですか」
「狂愛だって、愛だろ。そうでなければ、何だっていうんだ? その愛の形が正しいとか正しくないとか、そう判断するのは
「だけど……愛とは相手を思いやる……」
「まあ、そうだろう。だが、愛とは何だろうな? 見返りを求めず、与えることで満足することか? または、どんな状況に於いても相手の為に自分を押し殺す自己犠牲的なモノか? 愛したからには、愛されたいと願うのが真実じゃないのか? 自己犠牲的愛を捧げられるのも、見返りを求めず相手を思いやれるのも、そこには少しでも相手からの愛を感じることがあるからこそ、可能なんじゃないのか? それが全くのゼロだったり拒否された場合、それでも相手への愛を貫けるほど強い人間はそう居ないと思うがな」
「でも……殺すなんて」
「ここにあるのは、最初から自分の欲を満たすための愛だよ。相手の意思は何処にもない。だから相手を殺しても同じ。幻想の中でしか生きてないのだからな。本当なら屍体そのものを手元に置いておきたかっただろうが、嵩張るから首を切ったんだろう。頭なら丁度良い。抱いて寝たり、話しかけたり、さぞ毎日が充実したことだろうよ。だが、何もしなければ腐るのも早い」
「何故、頭を煮たんですか? 捨てなかった理由は?」
「骨、だよ。頭蓋骨が欲しかったんだ。エンバーミングをすれば、今度こそ腐らない。と、まあこれも憶測でしかないが。顔が好みだったんだろうなぁ。はははッ」
そう笑った
「
まさか。
「僕が
「
とりあえず店の扉は、しばらくの間閉めておけよ。と言い置いて
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