第4話 先輩の家庭事情に戦慄する
会社で一時期、ちょっとした結婚ラッシュが起きたことがあった。自分の先輩の何人かが、半年くらいの間に立て続けで入籍した。しばらく経つと、今度は子供の誕生ラッシュがあった。時期が重なったのは偶然だろうけど、必然的に結婚生活や子供の話を聞く機会が増えた。大体の人は楽しそうにしているのだけど、中には色々と不満を抱えている人もいた。
「たかし、結婚する時はよく考えた方がいいぞ。今はもっと遊んどけ」
若いうちから恋人がいて、そのまま別れることなく結婚する人が時々いる。お互いにちゃんと好き同士で、いざこざもなく平和に暮らせればいいのだけど、どうもそうとは限らないらしい。
「飲み会に行きたい。家に帰りたくない。ラーメン屋に行きたい」
奥さんがいなければ気軽にやれることを次々と挙げては、現実の家庭とのギャップに苦しんでいる先輩を見て、自分も無難な回答を言うのが大変だった。
「奥さんは俺が遊びに行くと怒るんだ。でも自分だってママ友と遊びに行ってるんだけどね。おかしいと思わないか」
それはちょっと平等じゃないですね、と共感しつつなだめたりはするのだけど、感情がヒートアップして離婚なんて話にならないかとヒヤヒヤしてしまう。この前、友達と雀荘に行ったら、怒った奥さんが雀荘まで押しかけて来たとも言っていた。奥さんはちょっと依存体質らしいので、まあそこは気の毒に感じる。
結婚はいつかしたいと思っているとは言え、とにかく結婚できればいいという話ではないのが難しいところだ。結婚相手をあまり厳しい条件で選別したくはないけれど、簡単に妥協するのもやっぱ良くないんだろうなあ。
また先輩は、奥さんとは寝室を別にしているらしいのだけど、お互いに会話が減るとまずいということで、なるべくリビングに出てコミュニケーションを取っているとも聞いた。テレビなんかも会話のきっかけになっているらしい。最近は子供が産まれたので、そこでまた会話が増えたようだ。子供の寝かしつけとかが大変で、ロクに眠れていないと嘆いていたけど。
年齢が上の社員と話していると、やはり子供の話を聞くことが増える。幼い子供がいると公園にいくことが増えるらしい。あとは遊園地とか。受験期の子供がいたりすると、模試とか進路先の話もチラッと聞くことがある。
ある日、家に帰りたくないと言い続けていた先輩が、眼帯を付けて出社してきた。理由を尋ねると、何でも触って口に入れようとする子供を取り押さえていたら、おもちゃを目にぶつけられたのだという。ごはんも拒否するしおむつ替えも辛いと、散々に愚痴をこぼしていた。
またしばらくすると、先輩が突然会社を休み始めた。なんでも、子供から風邪をうつされたらしい。一度だけでなく何度も会社を休んでいたのだけど、手足口病、水疱瘡、おたふく風邪など、大概の病気をうつされたと後で聞いた。
子供はかわいいと言っていたけれど、自分が似た生活を送れるかと言われると、少し自信を無くしてしまうのだった。子供は欲しいと思ってるんだけどなあ。
<つづく>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます