第5話 ファッションを助けてくれ

 改めてマッチングアプリ用の写真を撮りたいと思ったところで、根本的な問題に気がついた。服装や髪型など見た目の問題だ。いくら人に写真を撮ってもらったとしても、被写体が悪かったらどうしようもない。イケメンになろうとまでは思わないけれど、服装や髪型くらいはもう少し何とかできないか。


 そもそも最近、体型が肥満型になってきた気がする。ていうか肥満型だ。家でも会社でも「太ったんじゃないか?」と聞かれている。会社の健康診断では、毎年1kgずつ体重が増えている。まず痩せないと、似合う格好も似合わないんじゃないか。


 婚活するにあたって、単に結婚相手を探そうと思うだけだと、個人的にはモチベーションが湧きにくかった。それだけではなく、婚活を通じて体がシュッと引き締まるとか、ファッションセンスも磨かれるとか、おいしいレストランにも詳しくなるとか、そういう変化が起きることにも期待したかった。この際、自分の生活を変えようではないか。


 運動に関してはまず筋トレをしようと思ったものの、ここでまた疑問が湧いた。筋トレは今までにも何度かやっていたのに、そこまで痩せた試しがなかった。当然ムキムキになったことも無い。ちゃんと痩せるにはどうしたら良かったのだろう?


 筋肉が付かないどころか痩せられなかった理由は恐らく、負荷が足りない、頻度が少ない、継続期間が短いといった所だろう。体育会系の知り合いがいたけど、筋トレに対するストイックさは尋常じゃなかった。じゃあ前よりもメニューを増やせばいいのだけど、働きながら朝や夜に多くのメニューをこなすのは厳しい気がした。もっと続きやすい方法を考える必要がある。


 一人で筋トレをしたりするのではなく、友達を誘ってスポーツをする習慣を付けた方が良いのではと思った。でも例えば、テニスやバドミントンをしようと思っても道具がないし、遊べる場所も予約で埋まってることが多いイメージがある。それに、たとえ自分がやる気になったとしても、付き合ってくれる人が思い浮かばなかった。だったら道具不要で一人でもできる筋トレやランニングをしたらいいという考えに戻ってしまい、いまいち運動を継続できるビジョンが見えなかった。



 気を取り直して、服を買いに行こうと思った。けれどもここでまた躓くポイントがあった。服の整理がめちゃくちゃで、夏物も冬物も何の服がどのくらいあるのか把握できない状態になっていた。まず持っている服を整理する所から始めないといけなかった。


 結果、夏物としては何度も洗濯して色褪せたTシャツが5着ほど、冬物としてはパーカーが3着とフリースが3着出てきた。何故か下着だけは大量にあった(黄ばんだやつや繊維が伸びきったやつは捨てた)。過去にジャケットも買った気がするけど見つからなかった。インナー系は無地のカットソーが5着くらい。パンツだとジーンズが3着、短パンが2着。差し当たり見つかった服はお洒落とは程遠いので、少しずつでも探さないといけない。良い服はそんなすぐに揃えられるものじゃない。


 とりあえずユニクロに行った。行く時期が悪いと良い服が売れていたりもするけど、冬物が入り始めた頃らしく色々選ぶことができた。学生の時はチェック柄のシャツにジーンズをよく着ていたけど、オタクっぽく見えるらしいと聞いてから徐々に着なくなった。その頃よりファッションセンスはましになったと信じたいけど、鏡に映ったパーカー姿の自分を見ると、印象は大して変わっていないのかもしれない。前の同窓会で会った、結婚予定のある人はもっと垢抜けた格好をしていた。


 少しスーツっぽい服を選ぶだけでもお洒落に見える、というロジックをネットで読んだ記憶を元に、コートとチノパンを試着してみた。なんとなく大人っぽく見える気はする。靴も履き心地が良いという理由だけでハイキングシューズを履いてきたけど、服と合わせるならブーツっぽい靴も探してみるか。髪型は、美容院に行けばそれっぽく切ってくれるだろう。多分。


 下着もいくつか選んで、会計を済ませたら15000円くらいだった。欲を言えば、他にもカバンとか眼鏡とか、新調したいものはまだ色々ある。買いに行くのは来週か、それとも再来週か? いざ服を揃えに行くとなると、とても土日では時間が足りなかった。ファッションってやっぱ面倒だしお金かかるな……。あ、言っちゃった。



<つづく>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る