第6話 友達の結婚観を聞く
いつか結婚したいという気持ちはある。結婚するなら早めに動いた方が有利だろうとも思う。でも結婚に対して焦りが無いのは何故なのか。考えてみると、自分の友達で結婚した人が一人もいない、ということはかなり大きい気がした。会社では結婚の知らせを時々聞くものの、もっと身の回りで結婚の話を聞かないと、自分のことまで考える機会にはならなかったのかもしれない。
友達は結婚についてどう考えているのだろうか。実はこっそり恋人がいて、既に結婚も考えているとか……? 一度考えだすと、友達がどういう人生計画を立てているのか気になってきた。あいにく女友達はいないので、男友達にしか聞けないのだけど、遊びに誘ってみて途中でそれとなく聞いてみることにした。……あれ、これってうちの親とやり方が同じだな。
付き合いがある友達に、食事に行こうと誘ってみた。普段なら焼肉屋とかに行くことになるのだけど、自宅近くのカフェでランチを食べようと提案した。このチョイスも婚活を意識していないと言えば嘘になる。ちょっとした偵察も兼ねている。
普段カフェなんかに行かないせいか不思議がられたので、格安でサンドイッチとコーヒーを頼める店だという話で釣った。ちなみにこの情報は、元はと言えば親から知った話だ。そこは少し情けない気もする。
自分の家で待ち合わせして、2人でカフェに入った。一通り注文を終えると、話題は専ら仕事の愚痴になった。全然仕事をしない中年の作業員がいるとか、トリプルチェックをしてもすり抜けたミスがあって困ったとか、紙ベースで管理しているデータがあって処理が面倒とか、自分も話し出したらキリが無いくらいある。
でもそういう話をしに来たんじゃないんだよな、と途中で我に返った。普段から結婚の話などはしないのだけど、機会を伺って聞いてみた。
「俺、少し前に親から婚活しろって言われてさ。自分でもそろそろとは感じてて、ちょっと婚活しようかと思ってるんだよね」
一瞬の間を置いて、「マジか……」という返事が来た。続けて「お前、結婚できると思ってるのか」とか言い出したので、どういうつもりなのか聞き返した。
「たかしは基本的にずっと実家暮らしで、お互いに親離れも子離れもできてないだろ。結婚相手が見つかったとして、どう暮らすつもりなんだよ」
結婚相手とどう暮らすか……。いま実家に住んでいるなら、自分の両親と同居するのが自然だろうか? いや、今時そんなの嫌がる女性が多いだろう。そもそも自分だって家を出たいという気持ちがある。もし結婚するとなったら、まずはアパートを借りて暮らす方が良いだろうか。
それから、学生の時に一人暮らしの経験はあるけれど、料理や家事は得意な訳じゃない。かと言って家のことを奥さんに丸投げすることは出来ないだろう。同年代の女性なら自分の仕事に理解を求める人も多いと思うし、何もかもやってもらうのは申し訳ない。よく考えると、具体的な生活のイメージがほとんどないことに気が付いた。
「そう言うそっちはどう考えてるの、結婚」
一番聞きたかったことを聞いた。すると友達は少し考えて、「俺は結婚しないかな……」と言い出した。
結婚しない。マジか。
「たかしがどのくらい知ってたか分からんけど、うちの親って結構仲悪いんだよね。お互いに苦労してるのを何度も見てたし、別にそこまで結婚したくもないかなって」
結婚しないという選択は、自分も頭によぎったことはある。でも本当にその選択を取る勇気は、自分にはない気がする。
「子供は欲しいと思ってるけどね。でも何もしてないよ」
友達は結婚する気が無いから、焦りが無いのだと知った。じゃあ自分は……? 結婚する気ならもう、何か行動を起こさないとマズいのでは……。ちょっとモヤモヤとした気持ちを抱えながら、カフェの外で友達と別れた。
なんだか妙な空気にもなったけれど、食事中の写真も一応撮ってもらえたので、まあ収穫はあったと思いたい。写真はありがたく、マッチングアプリで使わせていただく。でも、自分が婚活することを応援してもらえなかったのは悲しかった。
<つづく>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます