第28話

 暗く長い階段を上りながら、私はフィルの言った事について、考えを巡らせておりました。

 かつての『聖女』が王政を作ったのだとすれば、それまでの獣人族たちは、どんな暮らしをしていたのでしょうか?


 いえ、そもそも彼らは、同じ種族の生き物なのでしょうか?

『獣人』という枠で一括りにするには、それぞれ姿が違いすぎます。

『王族』の始祖が『聖女』の子孫だという話にも、なんだか矛盾のようなものを感じます。


 異世界、という言葉でただ片付けるには、この世界は歪で、即席の箱庭のように思えてなりませんでした。


「……こっちだ」


 階段の途中、踊り場とでもいうのでしょうか、少しだけ広い空間に出ます。

 フィルが壁に手を触れると、重苦しい音とともに横道が姿を現しました。もはや驚いたりはしませんが、いったいどういった仕組みの仕掛けなのでしょうか?


 科学技術、魔法技術、建築技術……元居た世界の常識と照らし合わせると、やはり全てがおかしなもののように思えます。

 ファンタジーと、一言で述べて納得してしまえれば楽なのですが……。



 暗闇の通路を通り抜け、やがて私たちは、大広間へと出ました。

 その途端、ぱっと周囲に光が灯り、急に明るくなった視界の中、見覚えのある姿が目に付きました。


 そして聞き覚えのある、嫌な女の声が響きます。


「あら、こんなところで何をしているのかしらね? 王子様、そして聖女さんも」


 ミーシャ・フェリーネがそこにいました。

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