第7話

 次の日の朝、ミーシャ・フェリーネは獣人の騎士たちを引き連れて私のもとを訪れました。

 例によって、部屋に入る際ノックなどはありません。


 驚き、ミーシャを睨み付ける私を騎士たちが取り囲み、その中の一人が鎖の付いた手枷を取り出しました。

 また別の騎士は、手を全体的にすっぽりと覆う革手袋のようなものを持っています。


 獣人の騎士は、表面上は恭しい態度で言いました。


「聖女様、あなたにはこれを身に着けていただきます」


「……なぜですか? あなた方は、私の扱いを『聖女』から『奴隷』に変えたのですか?」


 もしくは『囚人』でしょうか? まあ、呼び名が変わるだけでしょうけど、不便なのはやはり嫌です。

 私の腕を掴んで引っ張り、手枷を嵌めてこようとする騎士に問いかけると、その騎士は面倒くさそうに顔をしかめました。


「違うわよ!」


 騎士たちの後ろで、ミーシャ・フェリーネが勝ち誇ったように大声で言います。


「あなたは躾がなっていないようだから、また誰かを傷付けたりしないように、爪を封じさせてもらうのよ!」


「鋭い爪があるのは、あなた方のほうでしょう? 私を思いっきり突き飛ばしたあなたにこそ、それが必要なんじゃないですか?」


「あら、口輪も必要かしらね」


 つん、とミーシャが顎を上げて言い放ちます。

 私に手枷が取り付けられる様子を、彼女は見下したように、ニヤニヤと笑いながら眺めます。


 鎖の長さは、三十センチほど。

 日常生活を送れなくもないけれど、やはり不便な長さです。


 革手袋は、嵌められたら食事をするのに不便そうです。

 それに汚くて、臭そうで嫌なのですが、私には彼ら騎士たちに抵抗する力はありません。


「これは躾なんだからね、聖女さん。あなたが悪い子じゃなくなったら、ちゃんと外してあげるわよ」


「……祝辞の件ですが」


「あら? 何かしら?」


「あなたとリカルド様の結婚式で、聖女がさせられる祝辞です。とても嫌でしたけど、この格好でなら、するのも悪くないかもしれませんね。見ている方々に、私の真意が伝わりやすいですから」


「はぁ……? 何言っているの? あなたが我儘な子だって、みんなが分かるだけでしょう?」


「……馬鹿なんですね」


 ミーシャ・フェリーネは、あまり頭がよろしくないようでした。

 それとも獣人というのは、皆そういった感性なのでしょうか……? その可能性も、ありそうです。


 私なら、手枷をされた状態で祝辞を述べている者がいても、無理やり言わされているとしか思いません。

 呆れていると、開け放たれたままの扉から、息を切らせたリカルド様が飛び込んできました。


「ユイ! お前たち、これは一体どういう事だッ!?」


 リカルド様が騎士たちを怒鳴りつけ、ミーシャは驚愕に目を丸くします。

 胸の奥が、ズキリと鋭く痛みました。

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