第6話

「何なんですかあなたはッ! 失礼にも程があります!!」


 ミーシャは「きゃんッ」と、それこそ子犬のような声を出し、怪訝な顔で私を見ました。


 私には、その表情の意味がはっきりと分かります。

 それは『飼っているペットになぜか引っかかれた』ときの反応でした。


「あなたが……あなたのような人が、リカルド様を……彼と私との事を、勝手な事を、言わないでくださいッ!」


 言いたい事が、怒りのせいで上手く纏まりません。

 彼女のような人の口から、リカルド様の名前が出てくるだけでも不快です。


 ……そして彼女が、自分とリカルド様を同類のように語った事も、不快でした。


 否応なく気付かされます。

 私はまだ、リカルド様を愛しているのです。

 このような女に奪われてもまだ、彼の事を、彼との日々を、心のどこかで大事に思っていたのです。


 リカルド様の私への愛情は、本物であったと、信じていたのです……。


「……はぁ、仕方のない子ねぇ」


 ミーシャ・フェリーネは呆れたように言いました。


「リカルドったら、聖女はいい子だって言ってたけど、全然躾ができてないじゃない。こんなに我儘な子になっちゃって……本当に、可哀そうだわ」


「――っ!」


 目の前が、真っ赤に染まったような感覚でした。

 気付けば私は立ち上がり、ミーシャ・フェリーネの頬に平手打ちをしていました。


「っ、何よ、このハゲ猿女ッ!!」


「かはッ――」


 その途端、ドン! と背中が壁にぶつかって、肺から空気が漏れました。

 どうやら私は、ミーシャに突き飛ばされたようでした。


 獣人と人間では、力に差があり過ぎます。

 背中が痛くて、息が詰まって、苦しい。


「まったく! せっかく優しくしてあげてるのに、こんな粗相をやらかすなんて! リカルドに文句を言わなきゃいけないわっ! いい? 聖女さん!! アンタが悪い子のままだと、私のリカルドが迷惑するんですからねっ!! ちゃんと反省しておきなさいッ!!」


 床にへたり込み咳込む私を睨み付け、ミーシャは大声でそう怒鳴ると、部屋から去って行きました。

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