第18話

「先生、終わりましたよ。」

中庭から戻ったナミがウルシイに微笑む。

「本当にありがとう!学園長に早速報告してくるね。今日はゆっくり休んで。」

とウルシイは学校のほうに向かって歩いて行った。

ユウはナミと目が合うとコクリと頷く。「クッキー食べた」と伝わっただろうか。

結界にウルシイが入る前ナミは声をかけた。

「先生、動物を殺すのは、楽しいですか?」

「楽しいよ。」

振り返って答えたウルシイは慌てて口を押えた。


その瞬間ゾクッと背筋が凍った。

「その質問に答えるのは六年ぶりかな?」

ウルシイは開き直ったように頬を緩めて言った。

「グレーを殺したのも先生ですよね?」

「思い出しちゃったんだぁ。それも確認したくてカガちゃんまで呼んだのに。

まぁ、また消しちゃえばいいか。」

とウルシイはローブの下から杖を取り出した。

「でも、また思い出されたら困るし。そうだ、影に殺されたってことにしちゃえば解決だね。」

その言葉にユウとカガは少し身構える。

「ついでに言えば、動物たちを失った時のみんなの顔はとても素晴らしいものだよ。特に君たちの時は最高だったよ。」

ウルシイは思い出してうっとりしている。

「何か言い残すことはあるかな?」

杖の先にゆっくりと魔法陣が浮かび上がってきている。


気が付くと、ユウ達の周りには熊ほどの大きさがありそうな犬や猫のような魔獣が唸り声を出していた。

その目は真っ直ぐとウルシイを見据えている。

「なんだそれは。」

ウルシイも大きな姿の魔獣たちに気が付いて少し下がる。

「先生。残念です。」

ナミのその言葉が合図だった。

魔獣たちはいっせいにウルシイに飛び掛かる。

ウルシイは勢いに驚いて尻もちをついて必死に後ずさりする。

魔獣の一体がウルシイの足先に噛みついた。

「ひっ、や、やめろ!」

と杖を振り回す。

その間に靴が脱げて、ウルシイは魔獣たちが届かない範囲に入った。

ウルシイは脱げた靴を気にする様子もなく、一目散に逃げて行ってしまった。


魔獣の一体が振り向くとナミに言った。

「足りない。まだ足りない。」

「私は契約守ったでしょ。」

「いや足りない、お前を食い殺してやる。」

ナミは両腕を広げて

「やってみなよ。」

と挑発する。

魔獣が飛び掛かろうとするとその間にグレーがナミを守るように割って入った。

ふたりは睨みあいながら唸っている。


それをただ見つめるユウとカガの間からスッと手が伸びてきた。

その手はナミを魔法陣の中に引きずり込んだ。

「ちょっと!」

と振り返るナミは自分を引きずり込んだ相手を見て、しまったという顔をした。

「ナミちゃん!危ない橋は渡るなって言ったでしょ!」

急いで帰ってきたマージはかなり怒っているようだ。

「すみません。」

「なんで、そんな無茶するの!?体力も魔力もギリギリだし。チャムレットあるんでしょ。」

そう言われてナミはしぶしぶといった様子で、腰につけていたリボルバーを取り出した。

「お説教は後でするから、行ってきなさい。」

とマージはナミの背中を押した。


ナミは深呼吸すると、覚悟を決めたように魔法陣の中から出で行った。

「グレーどけて。」

ナミは一言いうと、グレーと対峙している魔獣に向けて銃を撃った。

銃の音と魔獣の叫び声に思わず耳をふさぐ。

魔獣は煙のように消えてしまった。

他の魔獣は反抗する様子はなく。ナミの後をついて中庭に出て行った。

ナミは羽織っていた黒い服を脱ぐと、白の服は月明かりに照らされて綺麗に光っている。

大きい盃と小さい盃にそれぞれお酒を注ぎなおして月送りの儀式を始めた。

「マージせんせーお帰りなさい。」

と儀式を眺めながらカガは言った。

「ただいま。」

マージはニコッとほほ笑んだ。

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