第17話

三人は少し仮眠をとり、零時になる少し前に中庭の廊下に行った。

ナミは廊下と同じ白色のチョークでベンチの近くに丸い魔法陣を書く。

「この魔法陣の中は魔獣から見えないから儀式が始まったらふたりはここに入ってて。」

それから、ベンチから少し離れた廊下の方にはそれぞれに小瓶に入った液体をかけた。

寮の中に魔獣が入っていかないような結界だろう。


「ナミのその服きれーだね。」

薄いシルクでできている黒い羽織と同じ生地の白い服はどちらも月明かりに反射してキラキラ光っている。

「儀式用の服。多分持ってる服の中で一番いいんじゃやつなんじゃないかな?」

三人で話していると楓の木の陰から黒い影が近づいてきた。

奥にもいくつか黒い影が見える。

「グレー来たの?」

黒い影が重なりナミは少し見えなくなる。

ナミが少し手を伸ばしてユウを触ると、影はぼんやりとグレーの形を作った。

「簡易的だけど、少し見えるでしょ?」

グレーはユウとカガにも頭をグリグリと押し付けてくる。

その顔は少し寂し気に見えた。

もう会えないということを悲しんでいるようなそんな感じだ。


ナミはカバンから黒いインクの入った小瓶と筆を取り出して儀式の準備を進める。

腕と足、顔に筆を使って模様を書いていく。儀式を見たことのないユウとカガはその様子をじっと見つめる。

「そんなに、見ないでよ。やりにくいなぁ。」

「あ、ごめん。儀式なんて見る機会ないからさ。」

と苦笑いする。

「それは何してるの?」

「これは……、美味しくないから食べないでねっていう印かな。」

「あ、そういえば、二歩分って何のこと?」

夢でナミが言っていたことを思い出して何気なく聞いてみた。

ナミは少し驚いたような顔をして筆を止めた。


グレーはナミの正面に立ちじっとナミを見つめている。何か訴えている様子だ。

ナミは小さなため息をついた。

「仕方ないのよ。仕返しがしたいんだってみんな。」

そう言って楓の木のほうを見る。

殺されたのが確かであればそう思うのも仕方なのかもしれない。

「今までの推測があってるなら自業自得だとは思うけど、あの様子だと本当に魔獣たちが殺しかねないから、結界に入るまでの二歩分だけの時間を作るって話。」

最後の望みだから、とナミはそっと目を伏せる。


零時を知らせる鐘が学園全体に響き渡った。

寮の廊下から足音が一つ近づいてくる。ウルシイの姿が見えるとグレーは体を低くして一歩後ろに下がった。

「グレー、先行って。」

とナミはグレーを中庭に誘導した。

「ごめんね、遅くなっちゃって。」

ウルシイはグレーに気が付いていないようだった。

「いえ、今から始めるので。ちょうどよかったです。」


ナミはココアクッキーを一つ口に放り込んでユウとカガに目配せする。

そのまま中庭に出て行った。

「君たちに来てもらえてよかったよ。」

そういって笑うウルシイの耳元でピアスが光った。

月明かりで見えるピアスは夢で見たものと同じだった。

「あ。」

思わず声が出てしまった。

「どうしたの?」

ウルシイは不思議そうにユウを見る。

「あ、いえ。夜食にクッキー作ったのでよかったらどうぞ。」

「僕ももらっていいの?」

「はいどうぞ。沢山出来たので。」

「ありがとう。」

とウルシイはそれぞれ一枚ずつ手に取って食べる。

ウルシイがクッキーを食べてくれたことに少し安心する。あとは儀式が無事に終わることを祈るだけだ。


儀式は滞りなく進んでいるようだ。

木の陰から出てきた影はグレーを含めて五体ほどいる。

ナミは大きめの盃を手に取ってお酒を注ぐ。

初めにナミが少しお酒を飲み、その後影が順に盃のお酒を口にする。

影は次第に薄くなり消えていった。

「ユウ。」

ユウはカガに囁かれてそっと魔法陣に入った。

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