第16話

調理室でクッキーを作っていると「つかれたー!」とカガが入ってきた。

「お疲れ様ー。」

と余った材料で作ったパンケーキを出した。

「やったぁ!ありがとー!」

カガは「おいしぃー」と言いながら食べ進めている。

その後すぐナミも入ってきた。

「ごめんユウ。薬量少なかったかも。大丈夫だった?」

「大丈夫だよ。私こそ手伝えなくてごめんね。ナミさんも食べる?」

「うん。食べたい。」

ナミも少し疲れている様子だ。


ふたりがパンケーキを食べ終わったころ、調理室にウルシイが入ってきた。

「ごめんね、忙しくて全然様子見にこれなくて。」

ウルシイは今年も三年後期の担当なので忙しいのは本当なのだろう。

「進展はあった?」

「いろいろとありましたけど、今夜の儀式で解決すると思いますよ。」

「本当!よかったー。儀式はいつやるの?」

「零時ころに寮の中庭ですよ。」

「見に行ってもいい?一応この事件の担当だったから。」

「大丈夫ですよ。」

「ありがとう。じゃあまた中庭で。」

ウルシイはそのあとコノハと短い言葉を交わした。

「ごめん。ちょっと会議あるみたいだから行ってくるね。」

とふたりは調理室を出て行った。


「そういえばクッキー二種類作ったけど、ココアクッキーの方誰かにあげるの?」

「あー、えーっと。」

ナミは何か言葉を選んでいるのか少し考えこんだ。

「正直に言うけど、今回の原因はウルシイ先生だと思ってる。今回っていうか他の動物たちの件も含めて。」

言葉を濁すことができなかったのか、あきらめた様子でナミは言った。


「記憶が戻ってきてるとか、動物たちの記憶を見たとか理由は色々あるんだけど。」

と鞄からハンカチに包んだ小さくて透き通った石を取り出した。

よく見ると石に魔法陣が掘ってある。

「これは?」

「骨と一緒に埋まってたの。この辺りは火葬する人がほとんどだけど、北の方では土葬が多いの。分解されて自然に戻るまでの間あらゆる悪者から守ってくれるように。」

「これをウルシイ先生が一緒に埋めたってこと?」

「そうだと思う。寮の関係の先生で北出身の先生ってウルシイ先生だけでしょ?それにこれ並べるとわかるんだけど、魔法陣の癖が同じなんだよね。」

ナミはふたりに石とルーペを差し出す。

受け取ってみてみると確かに同じように見えなくもない。

「で、この石の悪いとこなんだけど、同じ魔法陣の石が近くにあると石同士繋がりが強くなるってところ。だから昨日コノハ先生の蝶がユウのところまでこれなかったし、他の動物たちの霊はグレーの力に引っ張られて出てきたの。」

「へー。そうなんだ。」

カガは解っているのか、いないのか適当に返事をしている。


「まあ、石の件はほとんどマージ先生の推理だけだね。前から少し疑ってたみたい。」

ナミは今朝の手紙を出して肩をすくめた。

「後はその推測が確実になるように少し口を滑らせてほしいの。」

「じゃあ、夜ウルシイ先生にクッキー食べさせればいいの?」

「そういうこと。ふたりにも違和感ないように一緒に食べてほしいんだよね。入ってるってわかってればそれほど効果はないからさ。」

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