第15話

ナミを外まで見送り、ユウとカガは温室からスコップを借て中庭に向かった。

「さて、始めますか。」

「がんばろー!」 

ふたりはナミに貰った薬を飲んで楓の木の下を掘り返す。


三十センチ位掘ったところで土の中から白いものが出てきた。

バラバラでわからないがおそらく動物の骨だ。

そこからは傷つけないように丁寧に手で掘り起こす。

ユウが二本目の木に取り掛かろうとした時、ナミが戻ってきた。

「ユウ大丈夫?変わるから少し休んで。」

「いや、まだ。」

そう返事をした声が震えていて自分が泣いていたことに気が付いた。

夏だから汗をかいてるだけだと思ったが、精神的ダメージは大きかったようだ。


廊下のベンチに座ってふたりの作業の様子をぼんやりと眺めていた。

気が付くと楓の木の下いた。あたりはもう夜になっていて周りに誰もいない。

立ち上がるが視線の高さが随分と低い。

足元を見て自分が猫になっていることに気が付いた。

『みゃー。』

誰かを呼ぼうとして自分から出た声は猫そのものだ。

その声を聞いてか誰か近づいてきた。

その人は自分のことを持ち上げてゆっくりと頭をなでる。

フードを被っているので顔は分からない。

頭をなでていた大きな手は首元にのびてきてゆっくりと首を絞め始めた。

苦しくて暴れるが、力は強くなるばかり。

意識が薄れる中最後に見たのは月明かりでキラリと光るピアスだった。


「脅かすくらいじゃ満足できないよね。」

『それじゃ足りない。』

『たりないなぁ。』

ナミと聞き覚えのない声たちの会話が聞こえてくる。

瞼は重たくてまだ開かない。

「でも、傷つけるのはダメ。」

『自分のことを棚に上げて何を言う?』

「…じゃぁ、二歩分だけ。」

『十分だ、食い殺してやる。』

ナミたちの会話が終わるとスッと体が軽くなる。


目を開けるとコノハの部屋のソファーに寝かされていた。

木の葉が揺れる天井を眺めていると、「目覚めた?」とコノハが声をかけてきた。

「あ、すみません。」

と急いで起き上がる。時計を見るともう夕方だった。

「ゆっくりで大丈夫だよ。」

と冷たいハーブティーを持ってきてくれた。

どうやら、熱中症と動物たちの負の感情で倒れてしまったらしい。

ナミたちには別の先生が付いてるので作業に支障はないようだ。


ハーブティーを飲んでいるとマンドラゴラがちょこんと膝の上に乗ってきた。

コノハお手製の小さなブランケットを羽織っている。

こういう姿を見ると、猫や犬もいいが魔法植物が一番好きだなと改めて思う。

「コノハ先生、亡くなった動物の記憶を夢で見ることってありますか?」

「んー、無くはないんじゃないかな。なんか見ちゃったの?」

「はい。多分。」

「話した方が楽なら聞くけど、思い出して辛くない?」

きっと話してしまった方が楽だろう。ユウは無意識に首に手を当てていた。

「自分が猫になってて、首を絞められたんです。多分そのまま死んだんだと思います。」

「そっか辛かったね。」

「あと、ピアスが見えたんです。見覚えある気がするんですけど、思い出せなくて。それって信じていいんですかね。」

「それは何ともいえないかぁ。完全にリンクしてるか分からないから、想像で補う部分も出てくると思うし。」

「そうですよね。」

とため息をつく。マンドラゴラも心配そうにこちらを見上げてくる。

大丈夫だよというように頭を少し撫でると嬉しそうにしていて可愛い。


ドアをノックする音が聞こえてカガが顔を覗かせた。顔には土がついている。

「あ、ユウだいじょーぶ?」

「大丈夫だよ。ごめんね、手伝えなくて。」

「いいよ、いいよ!休んでて!せんせー植物園の水道借りてもいい?」

「いいよ。詰まらせないでね。」

「はーい。」

カガは許可を貰うと植物園のほうに走っていったようだ。

気分もよくなったので手伝いに行こうと立ち上がる。


「先生。私も手伝ってきます。」

「あー、ダメダメ。ナミちゃんに近づけるなって言われてて。」

とコノハは紙袋を取り出した。

「何か手伝いたいって言われたらこれ渡してって。」

中身を見ると昨日とほとんど同じクッキーの材料が入っていた。

追加で入っているのはココアバウダーとチョコチップ、クチナシの実の粉だった。

メモを見るとクッキーをまた作ってほしい、ただココアクッキーの方にはクチナシの実を入れてほしいとのことだった。

「調理室借りてもいいですか?」

「それなら大丈夫だよ。心配だから僕も一緒に行くね。」

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