第13話
夜中になるまで三人はトランプをしながら学校での思い出に花を咲かせた。
会えばいつも話すようなくだらない話ばかりだ。
「そろそろ行こうか。」
ユウとナミはそれぞれランプを持ち、カガはいつでも動けるようにする。
部屋から寮の奥を周り最後に中庭を見に行くことになった。
月明かりの届かない奥の廊下は少し不気味で、三人の足音だけが響いている。
廊下を一通り歩いたが特に何に会うこともなく、残りは中庭だけになった。
「今日は出てこないのかな?」
「少し時間をおいて見に来るしかないかもね。」
その時、中庭の廊下の月明かりに黒い影が通るのが見えた。
それを追いかけて廊下に出ると、奥の廊下に影は入っていった。
「追いかける!」
カガはそう言うと同時に狼に姿を変え、走っていった。
ふたりも追いかけるが、カガはあっという間に暗い廊下に消えて行った。
「大丈夫かな?」
このまま追いかけて行っても行き違いになるかもしれなが、影が襲ってきたりしたら大変だ。
そう思っていると、一周回ってきた来たのかカガが戻ってきた。
「見失ったぁ。」
人の姿に戻ったカガは悔しそうにしている。
もう一度廊下を見回って居なければまた出直そうということになった。
すると奥の方から荒い息遣いが聞こえ、暗闇から黒い影すごい勢いで近づいてくる。
ナミは急いでその方向に結界を張った。
おそらくこれが今回問題になっている影だろう。
もう少しで結界にぶつかりそうというところで、カガの「ナミ!」という声と同時にナミは結界を解いた。
ナミは影にぶつかられて転び、その上に影が覆いかぶさっている。
「ナミさん!」
ユウは驚て声を上げるが、ふたりは笑っていた。
「ちょっと、止めてよ。」
と言いながらナミは起き上がると、黒い影は今度カガに飛び掛かった。
ユウは何が何だかわからずポカンとしていると、ナミは目を閉じるように言ってきた。
ユウの手を取り何か呟く。
「もういいよ。」その言葉に目を開けると大きな黒い犬と目がった。
それがグレーいうことに気が付くのに時間はかからなかった。
「グレー!」
名前を呼ぶと嬉しそうにグレーが飛び掛かってくる。
思ったより力が強く後ろの壁に衝突した。
背中は少し痛いが、ふわふわした暖かい毛並みに触れて記憶が蘇る。
雨に打たれて震えていた小さいころのこと、中庭で一緒にご飯を食べたり、昼寝をしたりしたこと。
そして、楓の木の下に泣きながら埋めたこと。
魔法のせいで思い出せなかったのが不思議なくらいだ。
中庭に移動する途中、ナミとグレーの後姿を見て思い出した。
グレーはいつも人の後ろを回って右側に顔を出していた。
構ってほしい時も右手や服の袖を甘噛みして気を引こうとしていた。
だから噛まれた生徒たちもみんな右腕に怪我を負ったのだろう。
中庭に着くとナミとグレーは何か話しているようだ。
「ナミさんて幽霊と話せるのかな?」
「ゆーれいっていうより、魔獣だから話せるんだと思うよ。ぼくも魔獣は一応見えるからね。」
「グレーってあんなに大きかったっけ?」
「魔獣は時間が経つと姿が変わるんだよ。こんなに時間が経ってるのにあんまり姿が変わってないのは珍しいよ。」
「そうなんだ。私、魔獣についてはあんまり知らないからな。」
「ユウは魔獣より植物だもんね。」
空を見上げると薄っすら白くなり始めていた。
おもむろにグレーがユウ達にすり寄ってきた。
「またねってさ。」
とナミが教えてくれる。
「またね。」
ふたりが言うとグレーは満足そうに軽い足取りで楓の木を抜けて消えて行った。
グレーを見送るとナミは振り返って言った。
「ちょっと寝よう。今日の作業は大変になりそう。」
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