第11話
「何があったの?」
シャロンが調理室を出た後ユウはナミに問いかけた。
ナミは深いため息をついて答えた。
「記憶処理の魔法を使ってたのよ。」
記憶に関する魔法は成人以上でないと使ってはいけない魔法の一つ。
正しく使わないと対象者の記憶に異常をきたすからだ。
先程、ヒトミが同じ質問をしてきた理由に納得した。
「でもなんでそんなこと、ウルシイ先生のゼミに入ってるならなおさらでしょ。」
「そのゼミに入っていたからよ。同じゼミの子たちに言われて逆らえなかったって。猫を飼っていたことはウルシイ先生との秘密だからって。」
「なんていうんだっけ?そーゆー制度。」
「カースト制度のこと?」
「あーそれ、それ。さすがユウせんせー。」
シャロンからの話を詳しく聞くと、猫を埋めるために楓の木の下を掘ると、他の動物の骨が出てきたらしい。
そこは埋めなおし、猫は別の場所に埋めたという話を聞いたということだった。
「ちゃんと供養してないなら、猫が化けて出た可能性はあるけどこの傷はどっちかというと犬な気がするんだよね。」
リストを見返しながら話をしているとコノハが戻ってきた。
「ヒトミちゃんは?」
「応急処置して、今は医務室にいるよ。」
と言いながら、コノハは全員分のコーヒーを入れなおす。
「ナミちゃん、クチナシ使ったでしょ。生徒にそれは拷問と変わりませんけど。」
コノハは少し怒っているように言った。
「きっかけを作っただけですよ。」
「まぁね。でも、今回は記憶処理の方が大きな問題だから見逃すよ。」
ナミは「すみません。」と小さく呟いた。
「シャロンちゃんはどうなりますか?」
「んー。成績はいい子だからね。良くて停学、悪くて退寮ってとこかな。」
寮生にとって退寮はほぼ退学と同義で、かなり重い処分だ。
コーヒーを飲んで一息ついたところでコノハは
「猫を飼ってること寮関係の先生はみんな知ってたんだよね。」
と笑いながら言った。
「君たちの時も犬飼ってたよね。名前なんだっけ?」
三人は顔を見合わせる。
「あれ?君たちの代じゃなかったっけ?灰色の大きめの犬。ほら、ナミちゃんに凄く懐いてた。」
それでもピンと来ていないユウ達にコノハは眉をひそめる。
その時調理室の扉をノックしてミヤハが入ってきた。
「あら、いたいた。あなた達今日は泊っていくの?」
「できれば夜の様子も見たいので。」
「じゃぁ、これ開いている寮の部屋の鍵。ふたり部屋だからベッドひとつ運んでおくわね。」
とナミに鍵を渡した。
「ごはんも必要なら作るから遠慮しないで声かけてちょうだい。」
子供の実家帰りみたいで嬉しいわー。とミヤハはニコニコしている。
「あ、そうだミヤハさん。この子たちの飼ってた灰色の犬って覚えてます?」
「覚えてるわよ。みんなグレーって呼んでたかしら。でも、今回の猫ちゃんみたいに亡くなっちゃってあなた達の落ち込みようは見てられなかったわ。」
ミヤハが夕食の支度の為に行ってしまうと調理室は少しの間静寂に包まれた。
なんで自分たちだけ覚えていないのか?それだけが頭をぐるぐる回っている。
「本当に何も覚えてないの?」
「覚えてない…。」
いつもへらへらしているカガでさえ重い口調だ。
コノハは少し考えた後、ユウを近くに呼んだ。
「ちょっとおでこ触らせて。」
熱を測る時のように、手のひらをユウのおでこに当てた。
コノハの手は暖かく少し頭がぼーっとするような感覚があった。
数秒でコノハは手を下ろして呟く。
「記憶処理の形跡があるな。」
かなりうまく処理されているようで自分の記憶に変な部分があると長年気が付けなかったようだ。
先程ミヤハに言われた寮の部屋に行くように言われて三人で向かう。
道中三人は無言だった。
魔法ですぐに思い出す方法もあるが、その場合無理やりになるので精神負担が大きい。
効果があるかわからないが、薬草から始めてみたほうがいいだろうという話にまとまった。
三人がそれぞれベッドに腰かけて、コノハの持ってきた薬草のお茶を飲む。
味は渋いが飲めなくはなかった。
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