第10話

「ふたりは誰のゼミに入ってるの?」

コーヒーを飲みながらナミはふたりに聞いた。シャロンはウルシイの心理学、ヒトミはマージの魔獣学のゼミに入っているそうだ。

ゼミでは授業の専攻科目とは別に専門分野を学ぶことができる。

授業と同じ分野を選んでより詳しく専門分野を学ぶこともできるし、授業では得意なものをゼミは興味がある分野をと別々のものを選ぶこともできる。

カガは在学中おやつが美味しいという理由でユウと同じコノハのゼミに入っていたくらいだ。

ふたりは寮生だったのでカガと寮生活についての話で盛り上がってる。


ナミはそっとユウに耳打ちする。

「クッキーできたらヒトミのこと結界の外に出してほしい。シャロンに聞きたいことある。」

ユウは不思議に思いながらも頷く。

「クッキーはお礼にあげていいからさ。よろしくね。」

その時ちょうどよくタイマーが鳴った。結界から外に出ると話し声は全くと聞こえなかった。

外からの音は聞こえているようで、ヒトミを呼んでクッキーをうちわで仰いで冷ましてもらう。

「これバタークッキーですか?」

「そうだよ。沢山あるからお礼に少し包むね。」

「ありがとうございます。」

「ぼくにもクッキーいっこちょーだい!」

いつの間にかカガがこっちに来ていてまだ熱いクッキーをほおばる。

「ナミさん何の話してるの?」

「さぁ?コーヒー貰って来てって追い出されたー。」

カガはクッキーを食べて満足げにへらっと笑う。


結界の中はナミの表情から察するに何やらピリピリしている様子だ。

ふたりにしたままで少し心配だな。と思っていると、ナミは拳で机を叩いた。

ここからでは音は聞こえないが、シャロンはビクッと肩を揺らした。

このままでは不味い。

ユウが近づこうとすると、コノハがサッとやってきてユウに目配せする。

コノハは結界の中に入っていって、ナミと話をしている。

先ほどの行動について咎めている様子だ。


しかし、少しするとコノハは顔をしかめシャロンに話を聞いている。

シャロンは泣いているようだ。

「何かあったんでしょうか。」

ヒトミも心配そうにその様子を見ている。

「とりあえずこれ。シャロンと2人で食べて。」

紙袋にクッキーを入れてヒトミに渡した。

「ありがとうございます。これバタークッキーですか?」

「え?あ。うん。そうだけど。」

先程と全く同じ質問にユウはしろどもどろに答えた。


「ヒトミちゃんちょっとこっち来て。」

結界は消えており、コノハはヒトミを連れて奥の部屋に行ってしまった。

「シャロン、一旦帰って。また連絡は行くと思うから。」

「わかりました。すみません。」

ナミに返事を返すシャロンの言葉は弱々しく震えていた。

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