第9話 

調理室に向かうと丁度授業が終わったようで、生徒がぞろぞろ出てきた。

「せんせー久しぶりー!」

カガは調理室担当のコノハに駆け寄った。

「おー。ふたりとも久しぶりだね。元気にしてた?」

「元気してたよ!」

ユウ達が学生だった頃コノハはよくおやつを作っては生徒に振る舞っていた。

コノハはどちらかというと、惚れ薬や傷薬などの薬草の扱いの授業が主なのでおやつに何か入っているのではないかと疑う生徒も少なくなかった。

ユウ達はコノハが生徒に振る舞うお菓子に怪しいものが入っていないことは分かっていた。

それにカガは薬が効きにくい体質らしいので、万が一薬が入っていたとしても関係なかっただろう。


「今日は何作りに来たの?」

「クッキーですよ。今日の夜食です。」

「いいねー。出来たら僕にも頂戴。コーヒー飲みながらでもどうぞ。」

と3人の前にコーヒーを出してくれた。コノハが淹れるコーヒーはブラックでも甘みがって飲みやすい。

「コノハ先生は今回の件何か知ってますか?」

「寮の話?聞いてるよ。その件で君たち呼ばれたんだろ?」

「そうなんですよ。マージ先生戻ってこないんですね。」

「そうなんだよ。まぁ君たちが来てくれたからいいんだけどね。」

コノハは肩をすくめた。


クッキーを焼き始めたころ、調理室の扉が開いてふたりの女子生徒が入ってきた。

「ハヤトから聞いて影のことを調べてる方がいるって聞いてきたんですけど。」

「ぼくらのことだね。こっちどうぞー。」

カガは空いている椅子を指さした。

寮生のリストを開いて名前を確認する。三年後期の寮生のヒトミとシャロンだ。

ヒトミはショートカットで桜がモチーフのヘアピンで前髪を止めている。

シャロンは金髪で短めの髪をツインテールにしている。

「影の事なんですけど、その…。」

とヒトミはちらっとコノハの方を見る。

「聞かれてまずいなら結界作ろうか?」

ナミの問いにふたりは目配せしてコクリとうなずいた。

「じゃあ、話聞かせてもらってもいいかな?」


簡単な結界を張り終わるとナミはふたりに向き直った。ヒトミが話し始めた。

ナミの結界は透けた緑色の薄い膜が張っていて、声は少し反響して聞こえる。

「ハヤトが襲われた三日位前に猫が死んじゃったんです。寮の同級生が飼ってたんですけど…。」

その猫は事件があった一か月前にウルシイが連れてきて、寮の中庭で飼っていた。

主に世話をしていたのはウルシイのゼミに入っている三年後期の寮生。

そして、一か月経ったころ猫が死んだ。死んだというよりは殺されたという方が正しい様な状態で見つかった。

「それで世話をしてた子達が楓の木の根元に猫を埋めるために穴を掘ったんです。そしたら。あれ?」

それまでスラスラと知っていることを話していたのだが、ヒトミは急に黙って焦っているように目を泳がせた。


「その猫が殺された恨みで、幽霊になって襲いに来てるんじゃないかって噂になってるんです。」

とシャロンが代わりに話し始めた。

ナミはその様子に眉をひそめている。

「その猫が埋まってるのは何番目の楓の木か分かる?」

「すみません。私たち直接かかわってなかったので聞いた話なんです。そこまで詳しくは分からなくて。」

とシャロンは視線を落とした。

「ねえ、シャロン。私何か他に言わなきゃいけないことがあったと思うんだけど。」

「え?ハルミ達が猫のこと言ったほういいよねって。」

「それだけだっけ?」

ふたりは小声でやり取りをしている。


「わざわざ話しに来てくれてありがとう。十分参考になる情報だよ。クッキーまだかかりそうだからよかったらこれ食べて。」

とナミは缶に入ったチョコレートを差し出した。

コロコロとした丸い形のチョコレートだ。

ふたりは「ありがとうございます。」とチョコレートを手に取った。

「えーいいなー。僕も食べていい?」

「どうぞ。」とカガとナミも一つずつ取って口に放り投げた。

ユウも一つ口に入れると、チョコレートの甘みが口全体に広がる。コーヒーを飲んでいたからかとても甘く感じる。

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