第8話
午後の講義が終わるまではまだ二時間ほどある。調理室もその後に貸してもらえるだろう。
ふたりは楓の木の間を抜けて学園の端に行くことにした。
どこからが端かと言われたら明言するのは難しいが、魔法で結界が張ってあるところが一応端にあたる。
結界の外でも講義はあるため、外から中に入れないようにするのが主な目的だ。
端に着くとナミは結界に五センチ四方の羊皮紙をかざして呪文を呟く。
羊皮紙にじわじわと魔法陣が浮き出てきた。
学園はどのような結界で守られているか魔法陣の一部を公表する義務がある。
その為、内側からであれば魔法陣が分かるようになっている。
「学園長って変わった?」
「今年変わったはずだよ」
結界の強度や範囲、術式などは学園長に一任されるのでそれぞれの特色が出やすい。
ユウ達が在籍していた頃の学園長はより自然のままで生徒に生活してほしいとのことで結界は必要最低限だった。
今の学園長はその逆で、結界をしっかり張ることで生徒が安心、安全である学園をアピールしている。
寮生の親にとってはそちらの方が安心なのか支持率が高い。
ただ、そのせいで学園の中にはタヌキやキツネなどの野生動物だけでなく鳥や虫でさえ見かけなくなった。
学園内の植物園には仕方なくミツバチを仕入れてきて放すことになった。
しかし、そのおかげで養蜂もできるようになったと植物学講師のコノハは喜んでいた。
コノハは植物の研究のためとよく学園を空けるので代わりにユウが臨時講師をしているのだが、ミツバチの世話も押し付けられそうで今から頭が痛い。
ルーペを使いながら魔法陣の細かいところまで見ていたナミが「ん?」と首を捻った。
「どうかした?」
「これくらい頑丈な結界なら、魔獣は入ってこれないはずなんだよね。話聞く限り魔獣寄りの件かと思ってたんだけど。」
外からでないとすると魔獣が中にいるということだろうか?
しかし頑丈な結界を張っている学園長のことだ、結界を張る前の調査もしっかりしているだろう。
そうなると学園関係者が犯人という可能性もある。その場合、ただの悪戯か、学園長の評判を下げたいのか。
「その黒い影とやらを見ないことには先に進まなそうだね。」
カガのところに戻るとユウにメモを渡してきた。
内容は放課後に調理室を許可するものだった。
「ユウのとこにまで飛んでいけなかったみたいで、あの辺でうろうろしてたんだよね。」
と、カガは中庭の楓の木の辺りを指さした。
本来なら目的の人まで飛んでいくはずだがメモを隅から隅まで見てみたが特に変わったところはないようだ。
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