第6話

「じゃ、聞き込みお願いね。」

ナミは寮生のリストに聞き込みのメモを書き込んでユウに渡した。

「了解です!」とカガは軽く敬礼した。

ナミは家に必要な道具を取りに家に戻るので、ユウ達はその間に聞き込みをすることになった。

ナミとカガは卒業生とはいえ、部外者に当たるので同行者としてユウが選ばれた。

手当が出るから、と言われてしまえば断る理由は見当たらない。


ふとカガを見ると狼の耳が髪の間から覗いている。

楽しかったり、怒ったり、悲しかったりすると耳と尻尾が意図せずに出てくるのは学生の時から変わっていないらしい。

「カガさん、なんか楽しそうだね。」

するとカガはハッとした様子で変化した狼の耳を押さえながら

「いけない、いけない。」

と心を落ち着けているようだが、中々戻らないようだ。

その様子を見てユウは我慢できなくなり噴き出す。

「なんだか楽しそうじゃん。探偵みたいでさ。」

耳を元に戻すのを諦めてカガは言った。


「ハヤトくん。今時間大丈夫?」

「ユウ先生、大丈夫ですよ。」

ユウは廊下を歩いたひとりの男子生徒に声をかけた。ハヤトは最初に怪我をした生徒だ。

「この前の怪我のことについて詳しく聞きたいんだけど。こっちはカガこの事件を一緒に調査してくれるの。」

「よろしくねー。」

ひらひらと手を振るカガに、ハヤトは軽く会釈をした。


ユウとカガは事件が起こった日の夜の話を聞いた。当日の話はウルシイから聞いた話とほぼ同じだった。

傷のつき方や場所などをもう一度確認し、リストに書き込んでいく。

「ありがとう。他にも何か知ってる生徒が居れば声かけてちょうだい。」

「分かりました。あの、よろしくお願いします。僕夜の寮散歩するの好きなんです。」

「わかる、わかる。いいよね静かな寮って。僕もよく夜の散歩してたなー。」

カガはうんうんと頷いた。


印がつけられた寮生に聞き込みが終わったのはお昼を少し過ぎたころだった。

「あー疲れたっ。」

ふたりは学園内の中央中庭でベンチに腰掛けた。噴水のおかけで少し涼しい。

「でもこれで一応全員聞き終わったね。」

メモが書き加えられた寮生のリストをパラパラとめくりながらカガは首をかしげる。

「ねーユウ、狼の噂ってどこから来たと思う?」

カガの言葉にウルシイが言っていた噂を思い出す。

「ぼくが呼ばれた理由って狼系の魔法動物の可能性があったからだよね。

これじゃあ、ぼくいらないんじゃないかなー。」

そこまで言うとつまらなそうにリストをポイッと投げてベンチに寝っ転がった。

ユウもリストをパラパラとめくってみる。

聞き込みで分かったのは、最初の被害者であるハヤトが満月の夜かその前後に中庭で襲われたこと。

他のふたりは自室からトイレまでの廊下を歩いている際に襲われた。時間は深夜一時から三時ごろ。

傷はハヤトが右腕の外側に二か所と内側に一か所、他のふたりは右腕の外側にそれぞれ一か所ずつ。

いずれも親指側から小指側に向かっての切り傷だが、傷の深さはハヤトが深く、三人目はほとんど出血はなかった。


他には裾を引っ張られた。手を舐められた。などの情報はあったが姿をはっきり見たという情報はなく、黒い靄だったとか、影だったとか、唸り声を聞いたとか、信憑性がないようなものもいくつかあった。

確かに狼の情報は今のところゼロだ。やはり単なる噂なのだろうか?

ゴーンゴーンと午後の講義が始まる鐘が鳴った。

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