第7話 氷見野vs魔族


【レイヴン視点】


俺はその戦闘を遠目に眺めていた。

俺が着いた時には既に、魔獣と、男の斬殺体があり、戦闘も佳境のようであった。


 へぇ。魔族の残党ね。まぁボチボチの強さ、ってとこかな?レベルで言うと62くらいか?


 で、たぶんあの討魔を生業としているっぽい地に伏している男は、この魔族に殺されたんだろう。可哀想に。残念ながら間に合わなかった。こっちに先に来るべきだったか。まぁ討魔とは死と隣り合わせなものだ。


それにしても、なんなんだあの娘は?

さっきいた娘も可愛いかったけど、この娘もまたエラく可愛いな、しかし。タイプがさっきいた娘とはまた違うけど。鑑定スキル使ってみよう。


名前は氷見野 刹那ひみのせつなか。いいねぇ。


……じゃなくて。

この年齢でここまで闘えるとはなぁ。たぶん十代だろ?しかも何か戦闘中にも関わらず、成長していってんぞ?


お、今の氷魔法の使い方とかセンス抜群だなぁ。勉強にすらなるわ。


……しかも、まだ奥の手を隠してんなぁ多分。


だが、残念ながらこの戦闘はあの魔族の勝ちだな。全く全力を出していないみたいだし。まぁいいや、もうちょっと見てよう。





「くっ」

氷見野 刹那とやらは徐々に劣勢に立たされていた。


「やっぱり、重力の負荷には慣れていないようですねぇ」


そう。あの魔族は、氷見野 刹那が魔獣との戦闘で疲労していたのを見抜いていたのだ。それで弱い重力魔法をかけ続け持久戦に持ち込んでいるのだ。いや、というよりそういう戦い方を楽しんでいるのだろう。


魔族の、刃状になった腕を使った斬撃は、致命傷を狙わず、氷見野 刹那の衣服をズタボロにし、柔肌に切り傷をつけていた。


「っく、ハァハァ」


明らかに息があがっている。ちょっとマズイ気がすんなぁ。


「じゃあ、この辺で。重力倍化」


「ぐっ!!」


氷見野 刹那は膝をついてしまった。こういう時は身体強化で対応するのが定石だが。氷見野刹那は魔力も切れかかっている。


「さて、チェックメイトですかな」


その魔族は氷見野 刹那の側へ降り立った。


と、氷見野 刹那の目がギラリと刃のような光を帯びる。そして陽炎のように蒼く輝いた。


絶対零度コキュートス 参ノ型」


「ッ!!」


魔族は瞬時に身体を捻った。


魔族の右肩から腕にかけてが一瞬にして凍てついた。そしてガラガラと崩れ落ちる。


おお、すげえな。魔法と本人固有のスキルを組み合わせたコンボかい。あれは俺も使えん。血継魔法に近いか。


「貴様ァ!!何をしやがった!!」


魔族が穏やかな調子を崩して、そう言った、

まぁそうなるわな。恐らくあの右腕は二度と治らない。どんな上級治癒魔法を使ったとしても、また凍って崩れ落ちるだけだ。たぶん。


「……不覚。外したか」


氷見野 刹那は眼から血を流してそう言った。

満身創痍だが、なんとか意識はあるって感じか。


お、あの魔族、相当怒ってんぞ。でもまぁ大したもんだ。ちゃんと冷静さを取り戻そうとしている。


「……よし、決めましたよ。私はやはり貴女を奴隷にしますよ。見た目も良いですしねぇ。見たところ魔族に怨みもあるようだ。それが貴女にとって、最も屈辱なのでは?」


魔族は超然とした態度で言った。


「……ふざけないで。そうなる前に自害するから」


「もう遅いですよ」

そう言うと魔族は瘴気を解放した。


「……あっ」


氷見野 刹那の目がその瞬間に蕩けた。


おそらく今、身体の中をどうしようもなく甘い、全身を刺すような快楽が駆け巡っている筈である。魔族の瘴気とはそういうものだ。


そうやって最終的には人間を自分の眷属へと変えてしまうのだ。前世の戦争の際は、そうやって人類は自分たちの仲間を魔族に変えられていった。そして最終的に、姿と思考の変わったかつての味方と戦うハメになったのだ。


魔族は氷見野 刹那の様子を確認した。


そして、徐々に放つ瘴気の濃度を徐々に高めてゆく。

その度に氷見野 刹那が敏感な部分に触れられたかのように、口を半開きにして反応する。


なるへそ。この場で完全に調伏させる気かい。えげつねぇな。そんじゃ、そろそろ行きますか、って、ん?


「っざけんなぁぁぁ!!!」

何とその状況から氷見野 刹那は渾身の斬り上げを放った。その斬撃は魔族の右脚を斬り落とす。


……すげえな。見事だ。多分なんか魔族に特別な恨みがあるのだろうか?俺と同じように。


「き、き、き、貴様ァ!!!」

魔族も今回は本当に驚いて目を丸くしている。まぁあの右脚は上級回復魔法で元に戻るか。


氷見野 刹那は舌を噛んで口から血を流していた。そして、その細身の剣を自分の向けて構えたかと思うと、躊躇なく腹に突き刺した!







……と、なる前に流石に俺は瞬時に移動して氷見野 刹那の手を掴んで、止めた。


「え?」

氷見野刹那はキョトンとした目で俺を見る。本当に事態が把握できていないような顔だ。


「やめろ。潔いのは美徳だが、君にはまだ早い」


「あなたは……天王寺君?なんで?何で戻って来たの?」

あーコイツも知り合いか?というか元々ここにいたのか?


「あー色々事情があるとしか言いようがない。というか割ってはいるのが完全に遅くなって済まない。君の闘いをずっと見ていたくなるほどに、見惚れてたんだ」


「え?」


そういうと、氷見野 刹那は少し目を逸らして顔を赤らめた。おうおう可愛いのう。


ちなみにその後、魔族に魅了されるシーンにも見惚れていたとは、口が裂けても言えない。


「なんですか?貴方は?」

魔族が俺に声をかけてきた。


「あー、詳細は伏せますが、あなた方の天敵ですよ」


「ふざけてますねぇ。私は男の奴隷はいらないのですが」


あーコイツキモいな。何というか俺の中で全体的にキモいとされる魔族の中でも、さらにキモい部類だ。


「そうだ!魔族も狩ろう!」


俺はこのフレーズが何故か気に入ったので、そう言った。

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