第8話 魔術師無双

「ふざけやがってええ!!重力倍化!!」


魔族は重力魔法を俺にかけて来た。

はぁ。ガッカリだ。俺に何の変哲もない重力魔法かける?この俺に?魔王の重力魔法を受けた男だぞ?


あの空間が歪むような、重力変化をもたらした魔王の重力魔法とは比べものにならない。


ま、あんときは耐え切れず骨折したけど。


「……闇魔法 反重力魔法アンチグラビトン


俺はどんな方法でも良かったがシンプルに逆の力を使ってコントロールし、浮き上がった。


「……は?なぜ浮いている?」

魔族は、本当にわからないといった顔をしていた。もしかしてアホなのか?


「あのね、さっき反重力魔法って言っただろうがよ」


「ふざけたことを言うな!重力魔法は超高難度の闇属性魔法!!私以外に扱える者は魔族でもそう居ない!!」


はいはい。そりゃこっちの世界での話だろうがよ。俺たちが召喚されてきた世界には、まぁそれなりに使えるやつはいたぞ?まぁいいや。


「超高難度って転生魔法とか冥府魔法とかそういうんじゃねぇのか?と、俺は思ってるけど」


「は?何を言っている?」

魔族は本当によくわからなさそうな顔をした。けっ、井の中の蛙が。


「それが分からんほど、不勉強だからお前は今から俺に狩られるのだ」


「ふざけるなぁっ!!魔獣召喚!!」


魔族がそう言うと、ゲートが開いた。

今度は顔が狐で、体が人型の魔獣、狐人が5体か。さっきの二足歩行する顎型魔獣よりは格上だな。


なるほど、これがコイツのスキルか。


まぁいい。こうやって召喚され続けると面倒だ。さっさとやっちまうか。


「武装召喚 臓腑裂きの鎌アズラエル

俺はそれを召喚した。


その瞬間、狐人が俺に四方から同時に襲いかかった。まぁまぁシンプルたが、効果的な戦術だな。


そして俺は鎌を薙ぐ。


その次の瞬間、五体の狐人はそれぞれ十八のパーツに分かれて、バラバラと落ちる。そして周辺に細切れになった肉片やら臓物やらが散らばり、血の匂いが充満した。


ああ臭えな。よし処理しよう。


「炎魔法 煉獄インフェルノ

俺は、指を弾くと無詠唱でその上級炎魔法を使用した。全てのモノを一瞬で蒸発させる地獄の炎。


一瞬だけ、影響がその残骸にだけ及ぶよう操作し、その魔法を使役する。


結果として狐人の魔獣は召喚された瞬間に、切り刻まれて蒸発した。側から見れば、そう見えたことだろう。


「な、な、なんだと、貴様。上級炎魔法を無詠唱で完全に操作した?のか?いや、というかそれ以前に、その鎌は……イヤあり得ない……あり得るはずが無い」

魔族は、明らかに絶望と恐怖に染まった顔をした。くくく、たまらんなぁ。お前らのその顔が見たくて、俺は転生してきたのだ。


「ケケケ、思い出したか?テメェらの天敵を。じゃあ狩ろうかな?」


「や、や、やめろぉぉぉぉ!!!!」


やめるわけねぇだろうが。

俺は魔族を丁度、上半身と下半身が二等分になるように計算して鎌を薙いだ。



ブンッ!!という風切り音と、かつんっと骨を断つ小気味良い音がほぼ同時に鳴る。



魔族は俺の計算通りに二つに分かたれた。



そしてその次のタイミングで、臓物がバラバラと溢れ落ち、陽の光に晒された。


そして、夥しい量の出血と臓物が床にどさり、と落ち、雨の中、湯気を放っていた。



「っか!!か!」

そして、その生命力の強い魔族の上半身側はよく分からない謎の生き物のような声をあげ、下半身側は筋肉組織の痙攣で、これまた別の生き物のようにダンスを踊った。



ケケケ。ざまぁねえな。



そして、そのダンスも止まり、静寂が訪れた。



終わった。



「えー、氷見野さん?大丈夫か?」

氷見野刹那はどこか。ポカーンとした顔をしていた。


「え、ええ。正直満身創痍だけどね。あと服が……ね」


あーそうね。下着がそこそこ見えちゃうくらいまで服がダメージ負ってるな。


「俺の上着貸すよ」


俺は、制服?らしきその服を氷見野刹那に渡した。


「あ、ありがと」


氷見野刹那は、目を逸らして恥ずかしそうにそう言った。


「……速見さんを、死なせてしまった」

氷見野 刹那は少しの沈黙の後、目を逸らしたまま、独り言のように呟く。


「速見さん、ってあそこで倒れている人か?」


「……ええ。頼りになる先輩だった。私が、もう少し強ければ……」


ふむ。ちょっと確認するか。

俺は、速見さんとやらに歩み寄って呼吸と心音を確認した。


「天王寺くん?」


うん、まだ、間に合うかもしれない。何て生命力の強い男だろう。


「回復魔法は苦手なんだが……」

俺は例によって詠唱を始めた。苦手なので長い文言を詠唱しなければならない。


半蘇生回復魔法レイズデッド


俺は、とっておきのその魔法を使ってみた。少しでも命の炎が燃えていれば、魂を身体に繋ぎ止めることのできる魔法だ。


お、上手くいってるぞ。

さて、ここまで来れば長々と例によって詠唱をして、と。


上級回復魔法クリティカルヒール


お、いい感じだ。傷口も塞がっていってんな。心臓も……動き出して呼吸もはじまったな。


「え?ま、まさか」


「まぁ一命はとりとめたよ。生命力の強い男だな。あとは、安静に、ってヤツだな」


氷見野とやらは、呆気に取られた顔をしていた。


だが、すぐに真剣な眼差しで俺を見て言う。


「あなたに聞きたいことがあるの。そう、本当に沢山。きっと他の魔獣もあなたが倒したんでしょう?」


ギクッ!!


「ん、まぁそうだね」


「これから時間ある?いえ、時間がなくても私について来て?」


「ん?あ、ああ」


と、言っても俺、状況確認ができてないんだよなぁ?どうすんべ?

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