第5話 魔術師降臨
【勇者パーティー 魔術師レイヴンの回想】
「究極闇魔法 冥府魔道の門」
「なっ!!お前バカかよ!!っなんでいきなりソレやってんだよッ!!」
デュークが状況を見ずにまた馬鹿みたいに騒いでいる。いや、そんな出し惜しんでる状況じゃねぇだろ。
「おい聞けデューク。大丈夫だ。というかコイツを俺一人の命で、殺せるなら得だ。良コスパってヤツだ」
「……だからって」
スキルの聖女とか呼ばれているけど全然、俺から見たら聖女っぽくないセシルが、悲しそうに不満そうにそう言った。
「あのなぁ、お前ら。俺は前提として転生魔法で記憶を引き継いで生き返ることになってるの。別に等価交換ですらねぇの。海老で鯛を釣るって話なの。理解して?」
「理解できんわ。狂人がッ!!命を投げ捨てやがって!!」
俺にはそのやりとりを見て魔王は微かに笑っているように見えた。けっ、何がおかしいんだか?
そして、その魔法が発現し、漆黒の霧の中から魔の門が現れる。てっぺんにアイアンメイデンの乗った巨大な扉だ。そしてアイアンメイデンの中から拷問された後の、無惨な状態の男が鎖に繋がれて、俺らの元に落ちてくるかのように現れた。その男は狂ったように高笑いをした。そして、ピタリと笑うのをやめ語り出す。
「……お、おおい術者。お、お、お前の命を代償に、そ、それと同じ価値の結果をこの門は創り出す。過程はない。あ、あ、あるのは結果だけだ」
その男は俺の知ってる通りの文言をそのまま言った。
「そんじゃアイツ殺して?無理だったら最低限、足止めして?」
俺は端的にそう言った。
「あ、あ、アイツ強い。殺すのはお前の命だけじゃ無理。む、無防備な状態を、を、8秒作るのが限界」
「あ、そ。やっぱコスパ悪かったな。ま、俺が弱すぎるだけか。来世はもっと強くならんとな。まぁいいや。8秒だとよ?デューク」
デュークは神妙な顔で頷く。なんでそんな顔すんのかねぇ?あらら、セシルに至っては泣いてるわ。鼻水流すんじゃねえっての。汚ねぇなぁ。聖女のくせに。
「さて、と行くかな」
俺はその禍々しい門に向かって歩き出そうとした。
「……ねえレイヴン約束して?」
セシルが涙声で俺に声をかける。
「あ?何だ?」
「転生したら、何年経ってようと会いに来るって」
ん?ああ、まぁ一応地球で転生予定だから可能なのか?そのときセシルはヨボヨボの婆ちゃんくらいなタイミングか?うまくいけば、まぁ可能……か。
「ああ、上手くいけば……な」
俺は取り敢えずそう答えておいた。
「じゃ、行ってくるわ。転生後にまた会おうぜ」
そう言うと俺は今度は本当に、その門に向かって歩き出した。
〜〜〜
と、いうことがあって俺、というより俺の意識は永劫にも感じる時間を闇の中を彷徨って過ごした。寒くて痛くて苦しい、まあごくごく普通の一般的な地獄のような時間だ。
そんな中、光が見えた。ああ、これは俺の記憶が保管してある部屋にアクセスできる扉だな。あそこに行くように事前に設定したのだ。
さて、転生しますか。
◇
で、なに?アレ?なんかヌルヌルすんぞ。転生した筈なんだがな。あれ?そしてなんか腹に刺さってるし、あと何だこの異臭は?状況を分析しよう。
うーん。
母体の中か?
イヤ、絶対違う。
まさか、何かに……飲み込まれてる?
おいおい、俺が考えていた転生とかなり様相が異なっているぞ?俺の知識では賢者に拾われたり、貴族の家に生まれたり、そんな感じの筈なんだけど。
ヌルヌルした何かに飲み込まれかけながら転生するとは、俺の魔法の性能もまだまだである。
まぁしゃあない。魔法使えっかな?
「
俺は簡単な、自分を中心に爆発する魔法を使ってみた。使い所は少ないが、取り囲まれたとき等に有効な魔法だ。
バンッ!!!
ふうっ。ああ空気が美味い。
だが、くっさ!!何かの体液でくっさ!!
「くっさ!!」
俺は思わず口に出してしまった。
外に出られた。
さて、状況確認だ。
ここは、どこかの建物の中だな。たぶんレイアウト的に学校と思われる。えーと、うん?魔獣の気配を辺りに感じるな。おそらく、学校を魔獣が襲った、ということか?
で、この飛び散った残骸を見る限り、俺は魔獣に喰われかけているガキに転生した、と?いや、違うな。転生は生まれた時からしていたけど意識が発現したのが今、というのが正しいか。
で、だ。それよりもっと気になるのが……。
なんか女の子がこっち見てるわ。明らかに泣いているし、同時に困惑した表情でもある。しかもかなり可愛い。とりあえずまず清浄魔法を自分にかけよう。可愛い女の子に見られてるし。
「トオル?」
その女の子は俺にそう呟いた。なるほど。それが俺の今世での名か。トオルね。たぶんここは日本だな。言語体系が以前来たときのものとほぼ一致している。ま、地球に生まれるようには設定したから、それは上手くいった訳だ。
でも、記憶が発現する年齢がおかしいよなぁ。それに関してはイレギュラーがあった、としか言いようがない。元々のこの肉体の持ち主に非常に申し訳ないのだが。
「ええと、嬢ちゃん?」
俺は清浄魔法を自分にかけながら、その可愛い少女に声をかけた。
「は、はい?え?トオル?」
「あー、なんていうか。ちょっと今トオルさんとやらは眠ってるんだ。説明がムズいけど。で、だ。ざっくり状況説明して?できれば、今が西暦何年かも含めて。昔の人に説明する感じで」
その俺の言葉に明らかに嬢ちゃんは面食らっていた。まぁしゃあないわな。だが、すぐに毅然とした態度に戻る。なるほど、しっかりした子だ。
「いまは、西暦21△◯年。魔王が討伐されて……。立ち直ってきて……壁の中であたし達は平和に暮らせてたけど……いま魔獣がなぜか学校に」
なるほど。そういうことかよ。よくわかったわ。まぁアイツらは上手くやった訳だ。西暦西暦21△◯年か。アイツら生きてんのかなぁ?
ま、それはこの状況を何とかしてからか。
「嬢ちゃん、この建物の中から真っ直ぐ最短で出て行けば、もう魔獣はいないから、外に逃げた方がいいぞ」
俺はその子に声をかけた。
「え?う、うん。で、でもトオルはどうするの?」
え?そんなの決まっている。
俺のやるべきことはいつでも同じだ。
「魔獣を狩る」
俺は、「魔」のつく生物全般への限りない復讐心を思い出してそう言った。
◇
俺は、この建物全体に対し、探知魔法を発動させる。ま、ざっと8ってとこか?
人の近くにいる奴から優先的に、でも移動途中の魔獣は倒しながら、ってとこか。
まずは……ここから数十メートルの広い部屋だな。ああコイツか。
「
「武装召喚
俺は魔力を手元に集めた。うーん、やっぱできないのかなぁ?来ねぇわ。ん?いや?キテル。きてるよ。
そして、俺の手元に相棒が召喚された。
何千、何万の「魔」のつく存在の血を吸ってきた俺の可愛い相棒だ。当然、「結界無効」の効果も付与済みだ。前世では、この世界の軍のようなものは、魔族達の結界を破れずに敗北した。
俺は瞬時にその魔獣の元に移動した。そして鎌を一気に引く。
何をされたか理解する前に魔獣は、上下に分断された。はい1匹。
さて、再度探知、と。お、誰かあっちの部屋で襲われてるわ。はよ行こ。
さて、次の部屋。
「な、中野……た、たすけ、だすけてくれっ!」
「虻川ッ!!て、てめぇ虻川を放せよッ!!」
なるほど。
あの虻川とやらが、魔獣に捕まれてて、中野ってのが助けようとしつつも、放せよ!としか言えないような、そんな状況か。
ベキっ!!
あ、なんか嫌な音がしたぞ。
「ぎゃああああ!!」
「虻川ーーーッ!!」
えーも今のは、魔獣がちょっと強く握ったから腕と肋骨が折れたのかな?まぁ軽症だな。
あ、やべ。あいつ食われかけてるわ。うーんでもあんま気が乗らないのは何故だろう。魂がそう言っている。男だからか?
と、次の瞬間、がその子を一気に飲み込んだ。
「ぎょぽべっ!!」
「虻川ーーーーッ!!!」
と、言いつつもその中野とやらは、走って逃げていた。ほう。なかなか正しい判断ができるじゃないか。この期に及んで助けられる筈もないし、奴が虻川とやらを消化している間に逃げられる可能性も高い。
合理的だ。
……ま、一応助けるか?後々なにかの利用価値があるかもしれない。
「風魔法 斬空波」
俺は精密に風魔法をコントロールしつつ「
ザクッ
そんな音とともに、魔獣は切り裂かれて虻川とやらが、中から出てきた。
あ、しまった。コントロールをミスって服まで切れてるわ。
その虻川とやらは全裸で、腕と脚が変な方向に曲がり、粘液まみれで気絶していた。重傷だが……まぁ命に別状はないか。
「どうでもいいけど、やはり臭いな」
まぁそりゃそうだ。魔獣の腹の中にいたんだから。
「……いかんな。何となく清浄魔法と回復魔法使う気がどうしても起きんわ。男だし」
ま、時間も惜しいし。回復魔法は得意な方ではないし。
俺は何故かそう感じて次の部屋へ向かった。
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