第4話 魔獣②(教室)
おいおい、どう言うことだよ?
この光景をどう表現すべきだろう?
逃げ惑う生徒達。教師。
……なぜだ?この街は「壁」で守られているから平気じゃなかったのかよ?
そうだ。
僕は自分の教室に向かって走った。
僕の教室 3-C
すでに、そこに着くまでの廊下に既に幾人分かの魔獣に食い殺されたと見られる無惨な姿となった亡骸があった。もし茜がこうなってしまっていたら……。
「うっ、おええええ!!」
吐きそうになる。
僕は3-Cまで辿り着き扉を開く。
そこにそいつはいた。
魔獣が一体。先ほどの魔獣と同じタイプが、その教室内にいるのが目に止まった。
その魔獣に対し……逃げ遅れたであろう女子3名が教室の隅で机で作られたバリケードの陰に避難している。
その中に、
「茜ッ!!!」
くっそ。生きてはいるが大ピンチだな。どうする?問題は僕が向かっていったところで、あの魔獣には明らかに勝てない、ということだ。
だが、僕に考える時間は与えられなかった。
既に魔獣は茜たちの元へ歩を進めている。茜たちは怯えるしかない。
一歩、また一歩。
そして、その大きな前腕を構えた。
茜達の顔は恐怖に引き攣り、涙で覆われている。
魔獣は腕を振り下ろし、一気に机を吹き飛ばした。
「きゃあああッ!!」
「茜ッ!!」
僕はその悲鳴を聞くと身体が勝手に動いていた。
机を掴んで盾のようにすると魔獣に突っ込む。
ドカッ!!!
ぶちあたった。だが、感じたのは圧倒的な重さであった。全くダメージを与えられていない。だが……。
幸い魔獣の注意はこちらに向いた。
「茜ッ!!その子達と逃げろ!!」
「トオル!?」
「早くッ!!!」
茜達は立ち上がった。別の女生徒が渋る茜を引っ張って教室の外へ出ようとする。
だが……。
まずい。魔獣の注意が茜に向いてしまった。
くそっ!!!
僕には魔獣が笑ったかのように見えた。
魔獣は瞬時に茜の元へ移動したかと思うと、その行く手を阻む。
ちくしょうっ!!
僕は衝撃で落ちていた蛍光灯を見つけた。そしてそれを割り、槍状にすると破れかぶれで魔獣の元へ全力疾走する。そして全身の筋力を総動員して跳躍し、全長4メートルはあろうかという魔獣に飛び乗った。
自分でも信じられないような力がこの時ばかりは発揮された。
その僕の行動に、一瞬、魔獣は虚を突かれたようであった。しめた!!
僕は魔獣の眼に蛍光灯の槍を突き立てる。
柔らかなものにずるり、と何かが突き刺さる不気味な感触。
「ギィヤアアア!!!」
魔獣は凄まじい声を上げた。そのフロアにいた全員に鳥肌が立ったであろう。凄まじい悲鳴。
だが、僕はアドレナリンが分泌していたのか、さらなる一撃を魔獣に加えようとしていた。
蛍光灯の槍はまだ、刺さり方が浅かったのだ。その蛍光灯の槍の柄の部分を僕は全力で、的確な角度でぶん殴る。さらに槍がめり込む。
悲鳴。
僕は自分の中の何か非常に残虐で好戦的な何かが目覚めようとしているような、そんな高揚感を感じていた。殺れる。このまま脳までこの蛍光灯を達せさせれば。
もう一発。蛍光灯の槍の底面部分に拳を振り下ろしたその瞬間であった。
拳が硬質なもので弾かれた。
……これは……結界か!!!
魔王達が世界を滅ぼしかけた時に、地球人の軍隊の敗因の一つとも言われているのが、これである。要は攻撃が効かないのだ。
異世界の力「異能」を使わない限り。
僕は、魔獣に振り落とされた。
今度は、落ちかけていた黒板を力ずくでひっぺがした。そしてその口の中めがけて、突進する。
……だが……。
その攻撃はやはり結界に弾き返された。
僕は後方にふっとぶ。
……そして、そのゴリラのような深海魚のようなフェンリルのような、大きな口の魔獣はこちらを向いていた。
目が合う。
明らかに万事休すである。
死。連想した単語はそれである。
そして、そのときは訪れた。
深海魚のような魔獣の上下に開いた口が凄まじいスピードで僕の頭から迫ってきた。
そして僕は、その魔獣に頭から食らいつかれる。自分の脚が地面から離れて、天を向く。
腹に歯が突き刺さり、めり込んだ感触があった。
そしてそのあと、ずるり、と何かに取り込まれたような。通り抜け、頭から落下し、飲み込まれたような感覚。
暗黒。
「トオルーーーッ!!!!」
微かにそんな声がどこからか聞こえた気がしたが、その後、僕は意識を失った。
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