第17話 白い魔獣②〜スカウト
俺は魔獣の絶対的な硬度を誇る結界と肉を突き破る感触に笑みが溢れた。
この魔法で魔王の心臓すらも奪ったのだ。そりゃあ、いけますよ。
だが、あるはずのその場所に、その魔獣の心臓はなかった。
「……なん、だと?」
魔獣はどこか笑ったようにも見えた。
そして、また稲妻を放つ。
ぐっ!!!
俺は後ろに飛んだ。
ちっ。ちょっと喰らっちまった。
こりゃ長期戦かな。
魔獣がこちらを見ている。俺を見ているのか俺の後ろの景色を見ているのか、何とも言えない、そんな目線だ。
なんなんだ?こいつは?
と、その魔獣はゲートを形成した。
魔獣がゲートに呑み込まれ消失してゆく。
「なんだよ。逃げんのかよ」
そう呟いた俺に魔獣は少しだけこちらに視線を向けた。その視線は何らかの意味を秘めているような気はしたが、俺はそれが何なのか理解する気はなかった。
まぁいい。なんとなく状況的にやり過ぎない方がいい気がする。
あんまり派手に闘うつもりはなかったけど、結構結果的に派手になっちまったな。
「じゃ、ということで後は頼むぞ。トオル」
◇
ま、いいけど……。
全くこの最近の一連のレイヴン大暴れ→あとの後始末を僕がする、の感じはなんなんだろうか?
いや、頼んだのは僕だし、レイヴンが出てくれないと死んでいたのだ。だから文句を言う権利は僕にはない。
でもなぁ。毒島 揚羽さんも明らかに驚いていたというか変な反応してたしなぁ。
「お強いですのね」
彼女が僕に声をかけた。
「あ、ああ、結構強かったですね」
「結構?あの魔獣は明らかにAランク以上の魔獣でしたわよ?ここで食い止めなかった場合、討魔軍が最高戦力を繰り出す程度のランクです。それにあの斬新な魔力の使い方。たしかに理論上では可能ですが……」
などと、毒島 揚羽はブツブツと言っている。
「え?え、ええまぁね。ちょっと覚えてませんが」
僕はとりあえず設定通りそう言った。
ごめんなさい、覚えてます。
「あら?そうですの?二重人格のような感じですか?明らかに雰囲気が変わりましたものね」
「え、ええ。まぁそのようなものです」
なかなか勘が鋭い。
「先程はいきなり襲いかかってごめんなさい。私は貴方の全力を見たかったのです。討魔軍で噂になっているあなたのね」
それを聞いて僕は、どきりと心臓が跳ねた。
「噂になっている?」
「ええ、まぁ一部の鋭い人達の中で、ね」
「貴女はどういうお立場なのですか?毒島さ……」
あ、しまった。
毒島 揚羽は、微笑みを崩さなかったが、目が笑っていなかった。効果音をつけるならゴゴゴゴゴゴ、という感じだろうか。怖い。
「揚羽さんは、どういうお立場で?」
僕の訂正に、揚羽さんはにっこりと笑みを大きくする。
「失礼しました。自己紹介が不十分でしたわね。私は私立討魔軍養成高専学園 通称毒島学園の副理事長です。ちなみに理事長は父ですが」
……はい?
「えーとその副理事長さんが僕に何の御用なのでしょうか?」
「貴方を我が学園の特待生としてお招きしたいのです」
毒島 揚羽はニコリと笑ってそう言った。
◇
私立討魔軍養成高専学園
通称 毒島学園
理事長 毒島 冥山
魔獣、魔族の残党狩りで多大なる戦績を残した英雄である。戦後、魔族の残党が支配していた日本が、現在の状況まで来れたのは、彼の力によるところも非常に大きいのである。
政界とのコネクションも確か強い。
現内閣総理大臣 八雲 源とはたしか盟友であった筈だ。
そんな彼が今後の日本、並びに世界のことを考えて作った組織が討魔軍。そして、一線を退いてからは、人材育成に注力。私立討魔軍養成高専学園。すなわち討魔高専を設立。
(余談だが、昔は高校と大学は分かれていたようだが、現在はマンパワーの関係で併合され、ほぼ全ての高校と大学は高専という形となった。大学は超エリートの通う新東京大学と新京都大学、そして新早慶大学の3校しか残っていない)
いやいやいや、お父様大物中の大物じゃないっすか。
「え、えーと話が大きすぎて見えないのですが……」
「あら?大きすぎるのは貴方のお力ではなくて?天王寺トオルさん」
すみません、僕じゃありません。いや僕みたいなもんだが。
「特待生?ですか?」
「ええ、そうですわね。私は因みにスカウトを担当しておりまして。貴方のような有望な方を連れてくるのが仕事なのです。そうすることで、学園内のレベルが上がり、討魔軍のレベルも上がる。重要な仕事です」
毒島 揚羽は、そう誇らしげに語った。
「特待生ってどういう待遇なんですか?」
「住居と三食とその他の生活費はタダです。勿論学費も。返還の必要もなし。ただし、卒業後は討魔軍に所属していただく形にはなりますがね。中には在学中に討魔軍に所属して、既に給与を支給されている者もおりますわ」
なるほど。魅力的である。正直行こうかな、という気になってきた。僕も現金なものである。うーんでもなぁ。
「ちょっと考えさせてもらえませんか?」
「ええ。良い返事をお待ちしておりますわ。これが私の名刺です」
そこには、連絡先が書いてあった。
……例によってレイヴンが、俺に圧をかける。
ふーっ、わかったよ。レイヴン。わかった。
「あの、名刺もう一枚頂けませんか?」
「え?構いませんが……」
僕は、名刺を受け取ると、サラサラサラッと手持ちのボールペンで魔力を込めて連絡先を書いた。レイヴンが氷見野さんにやってるのを見たので、何となくできる。これで、あちらからもこの名刺からアクセスすれば、連絡ができる筈だ。
「……これで、そちらからも連絡できる筈なので」
「……え?今、ただのボールペンでしたわよね?できないと思うのですが」
あ、しまった。
「いえいえいえ!特殊なボールペンですよ!!市販品っぽい見た目ですがね!」
「そ、そうでしたか。四菱鉛筆と書いてあったように見えたのですが……」
ギクッ!!見ていやがったよ。目敏いなしかし。
「四菱鉛筆の偉い人にもらったんですよ!なにやら最近、そういうプロジェクトをやってて、その試作品を作ってるそうですよ!!あはは!凄いですよねぇ」
「そ、そうですか」
ふう、疲れた。
そのやり取りを最後に僕は家にようやく帰ることができた。
異世界魔王が来た。だが人類は滅亡していなかった〜転生魔術師は追放高専生を育成して、東京で世紀末覇者を目指す〜 @daisandaison
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