第15話 毒島 揚羽


『探知してみ?』


僕は練習したばかりの探知魔法を使用した。後ろに生命反応……3人か。

どうするか?


『走ってみたら?』

ま、そうだな。これで追ってきたら僕に用がある、ということだ。とりあえず……例の公園まで逃げるとしよう。あ、そうだ。アレやってみるかな?


「身体強化!!」


まぁそれはいいとして、僕はレイヴン憑依後の緩い訓練の成果を試そうと、全力で走った。


『追ってきたな』


ああ。


しかも、ついてきているな。ここ最近練習しまくった生属性魔法の身体強化でかなりスピードは相当に上がっている筈だが……。これでついてきているのが一般人でないことは確定した。


まぁいい。


予定通り公園で対応する。


さて、夕方の公園には予想通り誰もいなかった。ここは、基本的に誰もいない。


と、俺の前方から探知していた通り、3名の男女が現れた。

なんとも奇妙な3人だ。


一人は、大男だ。黒いスーツにサングラスにスキンヘッド。いかにも、という風貌だ。


もう一人は逆に猿のような小さな男。逆立てた髪をしていて、木刀を持っている。


そして、もう一人。僕と大差ない年齢の女子。


ハッとするような美少女だ。


だが服装が奇抜である。いわゆるゴスロリ、というのか?そういう服を着ている。そしてその真っ赤な唇は妖艶な笑みを絶やさない。


「はじめまして。えーと、天王寺トオルさん?」


ゴスロリが僕の名前を呼んだ。何とも妖しい魅力のある、人を惹きつける声。


「ええ、はじめまして」

僕はとりあえずそう言っておいた。


「私は毒島ぶすじま 揚羽あげは。よろしく。響きの悪い苗字でしょ?だから名前で呼んで?」

毒島……ね。確かどこか崩壊した県で比較的多い苗字だった気がする。ん?それ以外にも何か有名な人で同じ名字の人がいたな……。アレ?誰だっけ?


「よろしくお願いします。揚羽さん。で、何か御用で?」


「あら?呼び捨てで読んで頂いてよろしくてよ?」


──絡みづらいやっちゃな。


「何か御用ですか?揚羽さん」


僕は敢えて繰り返した。


「ふふ。まぁいいですわ。ちょっと貴方について調べたことがあるんですの」


……いやな予感がする。


「ほう、それは何ですか?」


「この間の東条寺高専の魔獣襲撃事件……関係者の中で貴方の名前がちょくちょく出るんですけど、何か心当たりがおあり?」


──ふう。またかい。


「その件はちょっと色々あったんであまり言いたくないですね」

僕は若干面倒くさくなって、そう答えた。


「うふふ、その答え方と喋り方……。私好みでゾクゾクしますねぇ」


そう言うと毒島揚羽は、紅い唇を歪めて笑い、舌でその唇を舐めた。


たぶん毒島揚羽は僕と変わらない年齢だと思うが、そのちょっとした仕草は、どこか妖艶な色香を感じさせた。


その色気で頭がくらくらした、と言っても過言ではない。


油断していると、人を取り込むような、まるで妖気のような力を感じさせる。


「そうですか。でも、僕にできることはあまり無さそうですね」


僕は平静を装ってそう言った。


「あら?そんなことはありませんわよ?」


毒島揚羽は、目を見開いた。


「本当は……あなたと……戦いにきただけですから!!」


たたかいにきただけですから


の、「ら」のところで揚羽は無詠唱の水魔法を発動した。一気に僕の周りを水が包み込む。水の牢獄か。まずいな。息ができない。うーん、よし!今こそ練習の成果を!


上昇旋風エアライジング


僕は無詠唱で風魔法を竜巻のように発生させた。水が天高く飛ばされて、地面にザバーッという音と共に落下する。


「うふふ。やはり無詠唱魔術の使い手ですか。ときめきますねぇ」


やっぱ無詠唱って凄いのか。レイヴン憑依前は魔術を使えさえしなかったからよくわからん。それ以上に、ときめく意味はもっと意味が分からんが。


僕が毒島 揚羽の行動と発言に面食らっていると、次は、今度は大男が金属バットを使って物理攻撃を行ってきた。


とんでもないスピードだ。おそらく身体強化を使用している。シンプルな物理による暴力。気づいたときには僕の側頭部10センチまでバットが近づいている。


ガンッ!!


同じく僕も身体強化を発動。上段の回し蹴りで靴の踵部分で金属バットを弾き飛ばした。


イテテテ、危ないところである。


と、すかさず小さいほうが、ナイフで斬りかかってきた。


僕は、今度は中段の回し蹴りを食らわす。

その蹴りは顔面に直撃した。


「かっ!!」


小さいほうは悲鳴にならない悲鳴をあげた。大量の鼻血を流している。


「ごおおあ!!!」


今度はデカい方が、また金属バットを上段に構えて振り下ろしてきた。


「くっ!!」


僕はなんとか身を捩って躱す。


金属バットが地面にぶつかり凄まじい音を立てた。地面が大きく抉れている。くそ!このデカイ方、相当強え。パワーもスピードも僕より上だ。


ふうっ。


僕は小さく息を吐いた。


『おいトオルよ』

なんだよ、レイヴン?今必死なんだけど。


『代われよ』


はあ?嫌だっての。絶対に惨殺するじゃん。



『違うよ。「魔」のつく存在が来てるぜって話だよ』


あ?

そしてゲートが開かれる。


僕は、その姿に戦慄した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る