第13話 櫻井ハヤト
そういえば、結局、高専は無期限の休みとなったらしい。まぁ僕はどっちにしろ退学だから関係ないけど。
そりゃあそうだろうな。死者も結構出たみたいだし。たぶんここ10年くらいでもかなり大きな部類の魔獣侵攻だ。しかも、僕も記憶を共有してから知ったけど、魔族まで出たのだ。魔獣が複数出たのであればレベルIIIの災害だが、魔族まで、となるとレベルⅣだ。つまり討魔軍の支部が全力を上げて討伐にかかる、というレベルの災害となる。
また、僕の周りでいうと、ちょっと茜が難儀なことになっているようだ。特に怪我はなかったけどメンタル的にトラウマになってしまい、寝込んでいるらしい。また見舞いに行く予定にはしているけど。
あとは余談だが、虻川は全身の骨が折れて重傷だ。数ヶ月の入院を要するらしい。……まぁそれは本当に余談だ。
それにしてもヒマだ。人はこの状況をニートと呼ぶであろう。もしくは引きこもり。
なので、結局気ままに魔術を極めたり、レイヴンの知識を研究してみたり、バイトしたり、そういうことをひたすらやっていた。
と、いうような感じで、ヒマになり落ち着いたが、これから更にわかりやすく僕の進路に関わってくるような出来事が、また立て続けに起きることになる。
◇
「ピンポーン」
僕の一人暮らししている、部屋の呼び鈴が鳴った。誰だ?
俺は扉を開ける。
「天王寺トオルくんか?」
そこに居たのは独特の研ぎ澄まされた感じの雰囲気を持つオッさん。或いはお兄さんの2人組だった。なんなんだ?
真ん中の一人は若くて精悍な感じのする、25歳からアラサーくらいの真面目そうなお兄さんだった。左のもう一人は、40歳くらいの中間管理職風の紳士的な感じのするオッサン。
「はい。そうですけど?」
「私たちは討魔軍の者だ。ちょっと今回の事件の件で聞きたいことがあるんだ。ちょっとそこでお茶しないか?我々が奢るからさ」
あちゃあ、来ちゃったよ。参ったな。
僕は、この少し気に入りつつあった退学後のニート修行編が終わる予感を感じ、落胆した。
たぶん色々聞かれるんだよなぁ?
……まぁ、断るわけにもいかんよなぁ。
「わかりました」
◇
僕たちはその近所の喫茶店に入った。客はそこそこに入っている。
おそらくだが……このオッさん達は最も会話が聴かれづらいがリラックスして話せる場所、ということでこの場所を選んだようだ。
私たちはこういう者だ。という感じで2人はそれぞれ名刺を渡してくれた。うーん、名刺交換のマナーは僕はわからん……。ふつうにもらおう。
えーとこっちの20代っぽいお兄さんの名前は、と。
討魔軍 東京本部 四番隊隊長
っておいおい、隊長かよ!
もう一人は?
討魔軍 東京本部 四番隊副隊長
えええ・・・・
たしか
なんかメッチャ凄い人たちきてますやん……。
討魔軍の隊長、副隊長って多分相当に偉い筈だぞ?
てか、討魔軍って、やっぱ実力主義なのね。こっちの京極さんの方が絶対年上なのに、櫻井さんの方が偉いわけだ。
「あ、どうもよろしくお願いします」
僕はそう言うのが精一杯であった。
「で、だ。早速本題に入ろう。今回の八条寺高専の件、君が魔獣を討伐した、という目撃証言が上がっている。そのあたりの事実確認をしたうえで、報告するのが私の役目なんだ。ということで体験したことを覚えている範囲で話してほしい」
あれ?氷見野さんから報告行ってないのか?氷見野さんは確か三番隊だったよなぁ。一応別の隊の隊長、ということか?
なんか隊の違いによる派閥抗争とかあるんだろうか?とりあえず慎重に行こうか。
「えーと、クラスメイトが襲われてて助けようとして……必死で……魔獣に、蛍光灯を目に突き刺したとこまで覚えていますね。その後、なんか喰われた記憶があるんですけど必死で抜け出して……」
僕は、僕が主人格であったときまでの記憶を話した。2人がメモをとりながら、話を聞いている。
「ああ、確かにそこまでは、目撃証言と一致する。すごいね。あいつら相手に立ち向かえるってだけで大したものなのに」
「いや、本当にあのときは必死で……。友達の茜が、クラスメイトが襲われかけてたんで」
隊長の櫻井さんとやらは、頷きながら話を聞いてくれた。
「えーとそれで、そこから先の話についても目撃証言があったんだけど、そこからは話せる?」
そこから?氷見野さんか?
「えーと差し支えなければ誰からの目撃証言かお伺いしても?」
僕がそう言うと3人はヒソヒソと何やら相談しだした。
「まあ、彼の情報はどう使っても問題ない、って言ってたから言うけど、中野君だね」
中野?ああ中野か……。虻川を助けたときのアレね……。なんだ、見てたのかよ。
やっぱ助けなけりゃよかったかな。
まあ、ここは氷見野さんに行ったことと整合性をとっておいて、と。
「えーと。正直最初に蛍光灯突き刺して喰われた後の記憶があんまりなくて。まあ、ちょっと魔術の才能が生まれつきあるみたいなんですけど、戦闘になったら人が変わっちゃって覚えてないんですよ」
アレ?あのみかん農家の親父さんの設定は?
と、レイヴンが茶々を入れてきた。だまらっしゃい。いま大事なところなんだよ!
「へえ……魔術は誰に教わったの?」
「親父です。仕事の関係で一緒に住んではいませんが」
……親父ごめん。まあ親父にまで調べが行くことはあり得ない。あの、超人嫌いでみかんしか愛せない親父に、赤の他人がコミュニケーションを取ることは不可能だ。
「うーん、じゃあ魔術はどのくらいのことができる?」
おいおい、質問が僕の言ってほしくない方向に行きつつある。
「うーん、水属性の中級魔法くらいなら無詠唱で使えますね」
僕は、最近訓練してできるようになったことを、そのまま言った。いや、そりゃあレイヴンに出てきて貰えば、武装召喚だろうが、冥府魔法だろうがなんでもできるけども。
全員が、少しの時間押し黙った。
まったく……なんなんだ?
「うーん。京極さん、この子やっぱ逸材じゃない?僕はウチに欲しいなあ」
その櫻井という隊長は、年上であろう副隊長に声をかけた。
え?そういう主旨なん?
「うーん、いや本当だったら凄いことだと思うよ。この年齢で。三番隊の天才 氷見野を思わせるなぁ」
副隊長も同意する。主任とやらも黙っていたが、メッチャ頷いていた。というか氷見野さん天才なんだ、やっぱり。うん。それはわかる気がする。
「……そうそう、もう一つ聞きたいんだ。高専に魔獣が出た、っていうのは知っての通り、てか、見た通りだと思うんだけど他に何か見なかったかな?」
櫻井という人は、ここで僕をとても鋭い目で見た。百戦錬磨の修羅場をくぐってきた大人の眼差しに僕は臆しそうになった。
「他……ですか?」
「そうだねえ、聞き方を変えようか?たぶん今回出没した魔獣は同じようなタイプばっかりだったと思うんだけど、違うタイプの敵はいなかったかな?」
さらに櫻井の眼がギラっと光ったように見えた。
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