第3話 驚愕の現代文明②

「な、なんだこの柱は……」


 ササキ殿に連れられ外へ出るとそこには驚愕の光景が広がっていた。

 柱だ、柱がある。

 ただ妙だな、建物も何も支えておらず柱と柱をつなぐ線のようなものがあるだけとは……これは一体。


「電線です」

「デンセン?」

「ええ、あの柱は各家に電気を流すためのものです」

「で、電気ですか?確か雷ですよね」

「間違ってはいませんが近くはない表現ですね」


 う、嘘だろ。

 この世界の住人は家に雷を流すのか、と、とんでもない連中だ。

 警戒しておこう。


「着きました、ここがスーパーです」

「スーパー?」


 ササキ殿の後をついていく事10分、とある大きな建物に着いた。

 凄い人の量だな、外にも沢山の人がいるが中はその比ではないな。

 見ると中では食べ物が売られているように見える、なるほどこれは市場か。


「ササキ殿、これはまさか市場ですかな?」

「ええまぁそんなところですね」


 凄い現代の市場は建物の中にあるのか。

 これなら天候に関係なく品物を売ることができるな。

 

「ここで普段私たちは買い物をしております、ユウゴさんもこれからはスーパーに頻繁に通う事になると思うのでここは覚えておいてくださいね」

「わかりました!」


 そうしてまたササキ殿は歩き出した。

 しっかし見れば見るほど不思議な世界だ。

 人はいるのに会話がない、そしている人ほぼ全てが謎の板を凝視している。

 いやはや文明レベルは高いが、なんとも暗い街だな。


「な、なんだこれはー!」


 しばらく歩くと大きな通りに出た。

 そしてそこには全身を何か硬そうなものに覆われた生き物が高速で移動していた。


「あ、あれは一体……」

「車です、あれが現代においての移動手段の一つです」

「な、なんと」


 形状的に熊みたいなものなのだろうな、にしても早い、早すぎる。

 恐るべし現代文明。


「ユウゴさん、この先に公園があるのでちょっと行ってみましょうか」

「はい!」


 そうして私はササキ殿の後について行った。


「着きました」

「おお、いい感じの場所ですね」


 さっきまで喧騒とは違ってなんだか落ち着きのある空間だなぁ。


「ユウゴさん、あなたはこれからこの街で一人暮らしをしてもらいます」

「え?」

「そうしてここでの暮らしながら、この街にいる悪魔達を討伐してください」

 

 そうだった悪魔の討伐、それが私のここでの仕事だったな。

 あと一人暮らしか、まぁそんなの向こうで67年も一人だったんだ今更そんな事簡単だな。


「ええいいでしょう、そのために来ました」

「本当に大丈夫ですか?」

「え?」


 ササキ殿はそう言って俺の目をじっと見た。


「ここでの暮らしは、貴方の前いた世界とは全然違います、かなり苦労しますよ」

「え、ええまぁそれでもなんとかなりますよ」

「だといいですね」


 そう言ってササキ殿は空を見上げた。


「ふぅ、まぁ大丈夫というのならやってみますか、では明日から私の家で私の娘と2人で暮らしてください」


 え?な、ど、どういう事だ?

 何故私があの娘と2人で暮らすんだ、というかササキ殿は?


「ちょっと待ってください、さ、ササキ殿はどうされるのですか?」

「私はこれから貴方の世界に行きます」

「え?」


 な、何故ササキ殿があっちに行くんだ?


「この二つの世界は緻密なバランスで成り立っています、こっちの世界に貴方が来たということは、あちらの世界に誰かが行ってバランスを取らなければなりません」

「な、なるほど」


 バランスか、そんな風にして世界が成り立っていたとは、67年生きてきて初めて知ったな。


「では私はこれから貴方の世界に異動します、娘にはもう話はつけてありますので、頑張ってください」

「も、もう行かれるのですか、もっと私は貴方と話したかったのですが」

「そういうわけにもいきませんので、あ、そうそうこれをどうぞ」


 そう言ってササキ殿は、私に一枚の紙を渡してきた。


「こ、これは?」

「住民票です、そこに書いてあるのがここでの貴方の名です」

「これが私の名」


 村雲勇吾ーなんて書いてあるのか読めんな。

 ん、なんだ、なにか頭の中が変だぞ。


「……むらくもゆうご」


 な、なぜ読めたんだ。


「どうやら貴方の身体もこの世界に馴染んできたようですね、安心しましたそれでは私は行きます」


 な、なんだササキ殿の姿が透けていくぞ。


「さ、ササキ殿!」

「いいですかユウゴさん、貴方しかあの悪魔達は倒せないんです、どうか、どうかこの世界を救って下さい」


 そう言うとササキ殿の姿はさらに薄れていった。

 ふっ、悪魔の討伐か、私は前にいた世界を3度救ったのだぞ、悪魔くらい瞬殺してくれるわ。


「安心してくださいササキ殿、私は世界を3度救ってます、今回もその一つに加えるだけですよ」

「し、信じてますよ……」


 そうしてササキ殿の姿は完全に消えてしまった。

 ふむ、私はどうやれまたこの世界でも勇者をやるのだな。

 まだ見ぬ悪魔たちよ待っていろ勇者が行くぞ!

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聖剣なんていらねぇ!3回異世界を救った勇者の現代転生後の立ち回り。 神崎あら @takemitsu

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