伝染

チカチカ

伝染

 どうしてこんなことになったんだろう。

昼休みのチャイムとともに賑やかになった教室の中で、今日も一人ぽつんと座りながら、かなえはこっそりため息をついた。

涙が滲みそうになって、慌てて目をこする。悔しい。悲しい。でも泣くもんか。


 きっかけが何だったのか、今でも分からない。ある日突然、それまで仲良くしていたグループの子たちから無視されるようになった。

 「おはよう」

そう声を掛けても誰も反応しない。え?え?そう戸惑うかなえの方を誰も見向きもしない。

無視されるだけじゃない。

かなえが教室に入ると、それまでおしゃべりしていた子たちの会話がピタッと止まる。いたたまれなくなって、足早に自分の席に向かうと、背後から「くすくす」と笑う声が聞こえる。

 

 つらい。悲しい。苦しい。

 息ができない。


 まったく味がしないお弁当を、無理矢理口に入れながら、かなえの頭の中は、いいようもない感情がうずまいていた。


 このまま、何も感じなくなったらいいのに。


 ・・・・・・永遠に続くのかと思っていたその状態は、ある日突然解消した。

グループの中心だった子が、引っ越したとかで急に転校した。

そして、ほかの子たちは、悪びれもなく「ごめんねえ」と笑いながら話しかけてきた。


 なによ、それ。


 悔しさと怒りでいっぱいになったけれど、かなえもへらへらと笑いながら「ううん、いいよ」と返した。

そうするしかなかった。もう、あんな思いはしたくない。


 かなえに対する後ろめたさなのか、気付けばグループの子たちはかなえに気を遣うようになっていた。

最初のうちは、内心腹が立っていたが、少しずつグループの中心にいることが心地よくなってきた。


 みんなが私に気を遣う。みんなが私の話を聞く。同調してくれる。気持ちがいい。


 いつのまにか、かなえがグループのリーダーになっていた。


 キーンコーン、カーンコーン。教室にチャイムが鳴り響く。

「今日は転校生を紹介する」

仏頂面の担任教師が、見慣れない顔の女子生徒に対して手招きした。彼女は物怖じしない様子で教壇の真ん中に立つ。

「親の仕事の都合で、長い間海外に住んでいました。日本の学校に通うのを楽しみにしていました。たくさん友達を作りたいです、よろしくお願いします」

にこにこと彼女は笑っている。まるで、受け入れてもらうことが当たり前、というように見えた。


 気に入らない。


「ねえ」かなえは後ろの席を振り向いた。

「あいつ、生意気だと思わない?無視しちゃおうよ」

かなえは、にやっと笑った。

 

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伝染 チカチカ @capricorn18birth

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