前、一時間と少々
前、一時間と少々
私の家の屋根は赤い。私の部屋の天井はここよりもっと高い。じゃあここは一体どこなんだろう?ベッドから身を起こしても部屋の中は薄暗くて輪郭が全てはっきりとしない。私のベッドの隣で寝息をたてている人の顔さえもだ。
私は寝ボケているのだろうか?自らの記憶さえもどろっと溶け出したように確固たる形がなくなってしまっている。
「………………………………」
とりあえずここが私のいるべき場所ではないことだけは私の違和感が教えてくれているので、ゆっくりと地面に足をつき、この部屋から出て行く。
途中、通り過ぎる人の気配と寝息。この人の眠りは守らなければいけない気がして足音は殺す。しかし、うなされているのか、呼吸の音が少し苦しそうだ。だけど私には何も出来ない、してあげられない。無力で無気力でまるで無価値な私が誰かの救いになることはない。
だから、私は、祈った。
願わくば、この人が悪夢から覚めれるよう、この世界の地獄から遠ざけられるよう、心から祈った。
けれど祈りのもたらす加護が本当にあるなんて私は信じていない。だってきっと私の妹は心が擦り切れるまで祈ったのだろうから。それでもあの子に救いはもたらされなかった。それが結果だ。
この祈りも、きっともたらすのは無。
でも、それでも、誰だか分からないこの人のために何かしてあげたいという気持ちは確かにあって、その形が私の祈りとなったのだ。
「………………………」
私と同じ無価値な行為。分かっていても私はそれだけを残して部屋を後にする。
廊下へ出る。小窓から日が差し込んでいるため、先ほどの部屋よりは全体的に明るい。
さて、私はここから出て、自分の家へと帰らなければならない。あの家が私の居場所であったことに変わりはないのだから。
廊下を進んで階段へ向かう。不思議とこの家の間取りは足が覚えているようで勝手に歩みを進めて行く。そして一階へ下りて玄関から出て行こうと段差へ足を下ろそうと一歩踏み出す。
「……ん?あれ?」
しかし足が、動かない。
「え?」
脳は前へ行けの指令を出している。なのに私の足はまるで筋肉の変わりにコンクリでも流し込まれたように床にずっしり張り付いてビクともしない。
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