苦笑

苦笑1

「なんとか間に合ったぁ」

 ホームルーム開始を告げる鐘と同時に後ろ扉から教室に滑り込む。


 乱れた呼吸を整えながら、彼女の手がセーフ!と横に空を切る。


「いやぁ、ギリギリだった」

 私も手を膝に当て、一息ついてから教卓の方に目を向けるも、幸いまだ担任は来ていない。どうやら新学期始まって早々の遅刻は免れたらしく一安心。遅刻の理由なんて聞かれた日にはそれこそ走って逃げるしかなくなるところだった。


 結局二人でじゃれて遊びながら登校したせいで、ギリギリで到着し、校門をくぐったところで予鈴が鳴るのを聞きつけ、二人三脚で階段を駆け上がっていたので、彼女も私もすっかり息が上がってしまった。


 校門をくぐる前の、

『ねえねえ桜ちゃん』

『オッス!!!!』

『……うん。いや、さっきからずっと大声出してて疲れない?』

『オッス!!!!』

『……歩き方も、前時代のロボットみたで面白いけど、ちょっとポンコツがすぎるっていうか……』

『オッス!!!!』

『壊れたちゃったかぁ。……ごめんちょっと殴るね』

『うごおッス!!いってえ!!!!』

『愉快なのは良いけど、そのキャラは私の前だけにしてね?』

『………………』

『こんなに面白い桜ちゃんは他の人には見せたくないの』

『……オッス』


 というやりとりがなければもう少し時間に余裕を持って教室に着けていたと思う。しかしほっぺちゅうの一撃で中枢神経系のどっかがぶっ壊れアドレナリン分泌量が異常値を示しオッス星人になっていたのはマジのマジである。それがこめかみに喰らった彼女のチョップ一撃で治ったのも真面目のマジである。どうなってんだ私の頭。あと意外と手が出るのが早かった。これも恋人特典だろうか? 喜んで受け入れましょう。


「あっ、先生来たよ。じゃあ、また後でね桜ちゃん」

「う、うん。後で」


 自分の新たな一面を模索していたところで、教室の前扉がガラリと開き担任が入って来た。それにより、私達を含め教室内に散らばっていた生徒達が一斉に自分の席に戻り、私も自分の席に鞄を置いて着席する。 


 私と彼女の席の距離は決して二人の心の距離ほど近くはない。


 私の席が廊下側の真ん中の辺り、そして彼女は窓側最後列の席と、ちょうど反対側に位置するポジションなので、教室の中までずっと一緒というわけにはいかないのだ。せめて彼女の後ろ姿くらいは眺めることの出来る席なら良かったが、席替えはくじ引きなので文句を言っても仕方がない。次の席替えまでに少しでも得を積んでおくことにする。できればの話。

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